朝日が眩しい。私はカーテンの隙間から差し込む日差しに少し嫌気がさして寝返りを打つ。シーツが冷たくて足にそれが伝わって心地よい。うっすらと目を開ける。暗いその部屋に彼の姿は無かった。私は思わずがばっと起き上がって辺りを見渡す。誰も居ない。ただ窓の外から小鳥の囀りだけが聞こえてくる。―まだ頭がぼんやりとしている。私は髪を掻きあげながらスリッパを履いて部屋を出た。と、部屋を出た瞬間に、ふんわりといつもの匂いがする。私はその匂いに安心して(よかった。まだ、家にいる)リビングへと向かった。



リビングの扉を開けるとその匂いはより一層強くなった。私はゆっくりとキッチンの方へ向かった。―彼だ。彼がマグカップにコーヒーを注いでいる。と、私に気づいたのか彼はこちらを向いて「おはよう」と微笑んだ。私は小さく「おはよ」と呟いて彼の隣へ立った。


「匂い、廊下にも充満してた」


私がそう言うと彼は「いい香りだろう?昨日、カタギリに貰ったんだ」と得意げに笑った。私は自分のマグカップを彼のマグカップの隣に置いた。すると彼は何も言わずにコーヒーを注いでくれた。私はマグカップを両手で包むようにして持ち、テーブルにそれを置いてソファーに腰掛けた。隣に彼が来る。彼はマグカップをテーブルにおく前にそれを一口飲んだ。


「いい味だ。深みがある」


そう言って彼はもう一口飲んだ。私はそれを横目にただぼんやりと窓の外を見つめていた。こんなにゆったりとした休日は久しぶりだ。ここのところ任務ばかりが続いていてこんな風に休みをとることができなかった。それが今、こうして休みを取って、彼の隣にいることができる。彼と私の休みが重なることなど奇跡に近い。なんてことを考えていると彼は私の顔を覗き込んできた。


、君はまた仕事のことを考えていただろう。今は休暇だ。仕事のことは忘れてゆっくりと身体を休ませてやれ」


なんて少しずれたことを言って彼は私の頭を撫でた。・・・別に仕事のことを考えていたわけじゃないけど。でも、毎日あんなに任務で頭いっぱいな彼がこんなことを言うなんて、珍しい。私はコーヒーを一口含んで後ろにもたれかかった。と、私の頭をそっと彼の手が引き寄せた。彼の肩にそっと頭が寄りかかる。久しぶりのこの感じに私は心地よさを覚え、思わず目を閉じた。

「こうしていると、疲れなんてどこかへいってしまうようだな」


彼が小さくそう言って笑う。私は黙って頷く。すると彼は私の顔を覗き込んでそっと軽く口付けた。くすぐったさとコーヒーのほろ苦い味が唇に伝わるのを感じて私は目を開く。彼は微笑んでもう一度口付けた。




「今日はゆっくり休もう」

目覚めのコーヒー



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120317