「レンなんて大嫌い」

「ごめんね、レディ」

「やだ、絶対許さない」

「ごめんね、


さっきからこのやりとりが延々と続いている。でもやめようとは思わない。私は先ほどコーヒーショップで買ったカプチーノを片手にレンよりも先を歩いた。隣になんて並びたくない気分なのだ。

さかのぼること1時間前、私とレンは休日デートを楽しんでいた。中々休みの取れない彼なので、こういった貴重な休みは決まって私とデートをしてくれる。それは有難いことなのだが、やはり彼は国民的アイドル。休みの日も仕事関連の連絡が立て続けに入ってくるのだ。でも、それくらいのことなら私も覚悟は決めているし、仕方の無いことだと片付けることができる。けれど今日は違った。それは映画館での出来事。映画鑑賞中に、しかもこれからクライマックスというところでレンの携帯が音もなく光ったのだ。それに気づいた彼は劇場を出て仕事の連絡を受けていたのだ。前々から楽しみにしていた映画で、しかもラブストーリー一番好きな人と一番見たいシーンに彼は一緒にいてくれなかったのだ。周りを見渡せばカップルが手を握り合いながら画面を見て涙ぐんでいて、私は完全にその場から取り残された存在になっていた。クライマックスが終わり、エンドロールが流れている最中に彼は戻ってきた。しかもいつものことだからと思ってか軽く「ごめんね、連絡が入っちゃって」なんて軽く笑って言ってきたことに、私はむっときてしまい、今に至っているのだった。

小さなことで怒っているって分かってるし、我侭だって事も分かっている。けれど、やっぱり一緒に共有したくて仕方が無くて、でも私は不器用で子供だから怒ることでしかそれを伝えることが出来ないのだ。意地を張り続けて1時間もこんなことが続いている。

もうすっかり夜だ。そろそろデートの時間も終わりになる。明日になれば、また彼は仕事続きになってしまう。次いつ会えるかも分からない状態だ。こんな形でなんて終わりたくない。でも後戻りできない。私は自分の目にうっすらと涙が浮かぶのを感じた。―本当に子供みたいだ。




、」

彼が私の名前を呼ぶ。私はカプチーノを飲んでそれを無視した。すると、彼が私の手をぐいっと引いて強引に口付けてきた。

「ちょっと、やけどしたらどうするの!?」

「ごめんね、そんな顔させて。次からちゃんと考えて行動するから」

そう言って彼はもう一度口付けてきた。人目についたらどうするんだ、とハラハラしながらも私はそれに必死にこたえた。唇を離すと彼は私の頭を優しく撫でてくれた。彼はいつもこうやって私に素直になるためのチャンスをくれるのだ。そしてそのチャンスに今回も甘えている自分が居る。


「・・・ごめん、私こそ大人気なかったよね」

「ううん、いいんだよ」


彼は私の頭をもう一度優しく撫でた。
彼の手に安心感を覚えながらも口に含んだカプチーノは先ほどよりもずっと甘く感じた。

ケンカの後のカプチーノ



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120405