かっちょいいオトコに憧れる!の巻
「んー」
雑誌を見ながら音也は唸った。私はその様子を隣で不思議そうに見つめる。
私の視線に気づくと音也は慌てて雑誌を机の中に仕舞う。・・・怪しい。
私が机の中を覗こうとすると、「わー!」と大声を出して机を身体で覆う。
「だーめだめだめだめ!!」
「なんで?」
「は見なくていーの!!」
そう言って満面の笑みで私の頭をくしゃりと撫でる。また丸め込まれた。
なんか納得いかない・・・。私は少し不満があるような素振りを見せながら
席へ戻った。その一部始終を見ていたのだろうか、那月くんが私の顔を心配そうに
覗き込んできた。
「ちゃん、どうしたんですか?何かありましたか?」
「那月くん、聞いてよ、音也がね・・・」
事情を話すと那月くんはうーんと唸りだした。私はその様子を見つめながら、
ちらちらと音也の方を見た。音也は机から再び雑誌を引っ張り出して真剣に読んでいる。
なんだろう、あれ・・・?
「あ!」
と、那月くんの明瞭な声が聞こえて私はハッと我に返る。
そして那月くんを見ると、何か閃いたような顔をして私の肩を叩いた。
「こうしてみてはどうですか?」
*
音也にバレないように、こっそり近づいてみる。
音也は私と那月君が後ろにいることに気づいていないようだ。
とても真剣な眼差しで雑誌を読んでいる。
そーっと那月くんが音也に手を伸ばす。
そして二人で顔を見合わせ頷き、那月くんが勢いをつけて後ろから
音也のことをぎゅっと抱きしめた。
「音也くんっ」
「うわっっ!」
音也が驚いた拍子に雑誌がどさりと音を立てて床に落ちる。
それを見た那月くんが私のほうを見て「今ですよ」と合図を送る。
私は頷いて落ちている雑誌に手にとった。よく見てみると、それは男性もののファッション雑誌だった。
私は思わず音也と表紙のモデル(Sクラスの神宮寺くんみたい・・・)を交互に見る。
すると音也が私の手元にある雑誌を見て口をパクパクさせる。
「ちょ、お、あ、、そ、それは・・・」
「・・・」
慌てて言葉にならないような声を漏らした音也を無視しながら私は雑誌をパラパラとめくる。
中には最新のトレンドからヘアセットの仕方など、おしゃれな男の子必見の内容ばかりが書かれていた。
・・・なるほど。
私はニヤニヤしながら音也をじーっと見つめる。
そういえば最近、髪の毛のセット上手くなったかも。
それに、私服もおしゃれになった気がする。
・・・なるほど、ね。
「〜〜〜っ」
恥ずかしそうに顔を手で覆う音也。
その後ろからぎゅうっと抱きつく那月くん。
そしてそれをニヤニヤしながら見ている私。
なんという構図だ。
「・・・だよ」
「え?」
音也が小さくつぶやいたので、私が聞き返すと音也は悔しそうな顔をしながらこちらを見た。
「アイドルたるものかっちょよくないといけないし・・・。それに・・・」
「それに?」
那月くんが抱きつきながら音也を覗き込んで尋ねる。
それがより一層音也の恥ずかしさを引き立てたのか音也は俯いて顔を真っ赤にした。
「にふさわしい男になりたかったんだよっ」
そう言った音也は那月の腕を解き私の手から雑誌を取った。
そしてそれを再び机の中にしまった。
そうだったんだ。
私のためだったんだね。
私はこみ上げてくる嬉しさに我慢できなくなって音也の手をぎゅっと握った。
音也はびっくりして目を大きく見開いている。
「ありがと」
私が小さくそうつぶやくと音也は先ほどよりも顔を赤くしたがすぐに首を横に振って
私の手をぎゅっと握り返して笑いかけてきた。
「絶対、かっちょいいオトコになってみせるからな!待っててくれよ!」
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120123
「なんだか翔ちゃんみたいな抱き心地でした」「なっ・・・」