2人きりの生徒会室にて、16:00のチャイムを迎えた。

私の斜め前の席には大好きな、大好きなあの人が座っている。
並んでいるたくさんの書類の隅からのぞくように、彼の顔を見つめる。
綺麗な髪色が夕焼けに反射してより一層輝きを放っている。私がそれに見とれていると、彼は視線を感じたのか
こちらに目線を移した。

「どうかしたか?
「あ、いえ!すみません、なんでもないです・・・」
「?は変な奴だなあ」

少し笑って彼は再び書類へと目を向けた。
そう、この人が私の大好きなひと。






生徒会に所属が決まった当初、私は毎日慣れない仕事に苦戦していた。
書記の仕事って、会議とかの記録をまとめるだけだと思っていたけれど、その作業が思った以上に大変で。
「まとめる」ということがどれだけ難しいことなのか思い知らされるばかりであった。

そんなある日、私が自分の分の仕事が終わらずに遅くまで一人で作業をしていると、
会長が入ってきたのだ。

「まだやっているのか」
「グラハム先輩・・・」
「会長、だ」

そういってにやりと笑った彼は私に近づいてきた。
そして書き途中のプリントを私の手から奪い、目を通し始めた。

「綺麗だ」
「え?」
「書道、習っていたのか?」
「あ、はい・・・まあ」
「そうか、すごく力強く綺麗な字だな」

一瞬「綺麗」といわれて心臓が飛び上がるのを感じた。と思ったらなんだ、字のことか。
ちょっとびっくりしたけど、ほっとしたようなそんな感覚に襲われる。



ふと、名前を呼ばれて私は身体をピクリと反応させる。
初めて名前で呼ばれた・・・。おそるおそる顔を上げると会長は私の頭を優しく撫でた。

「今日はもう遅い、帰ろう。なにも今日中に終わらせる必要はない」

そう言って会長は私の荷物を簡単にまとめ始めた。私は「じ、自分でやります!」といいながら
会長の手からカバンを受け取った。そして、ブレザーに袖を通す。すると会長は出口のほうに歩いていった。
帰ったのかな?なんて思いながらも目線を机のほうに向けたまま仕度をしていると、何か視線を感じる。
ふと出口のほうを見るとそこにはドアに寄りかかりながら腕を組んでこちらを見ている会長が目に映った。

「あの・・・」
「仕度済んだか?」
「え?」
「一緒に帰ろうと思っているんだが・・・ダメかね?」







夕日も沈みかけ、空が真っ暗になりかけている。
私はそんな空を見上げながら少し早足の会長の後をついていくようにして歩いた。

「少し、速いか?」
「い、いえ、私が歩くの遅くて・・・。すみません」

そう言うと会長は私の足に合わせて歩き始めた。時々肩がぶつかる。私はそのたびなんともいえない恥ずかしさが
胸にこみ上げてくるのを感じた。ちらっと会長の顔を見ると彼は余裕そうな顔つきで前を見据えている。と、見ているが
バレしてしまったのか、彼の視線が私の視線とぶつかった。私は思わず目を逸らす。

?」
「すみません、」
「なぜ謝る?」
「・・・すみません」

また謝っちゃった・・・。と私が心の中で後悔していると、会長はハハっと声を上げて笑った。
笑われてしまった・・・恥ずかしい。

そんな風に他愛ない話をしていると、私の家の前まで着いた。
私が立ち止まると会長はそれを察して同じように立ち止まる。

「じゃ、じゃあ、これで・・・」
「ああ、また明日な」

そう言って会長は手を振って歩いて行った。
その背中がとても大きくて、私は思わず見とれてしまった。

―心臓がうるさい。

鳴り止まない心臓の音がおさまるまで、私は呆然ともう見えなくなったはずの
会長の背中を見つめ続けていた。





そして今日も窓から見える空に目線を移す。
この部屋から見る空は格別だ。最上階だから見晴らしがいいのもあるのだが、
何より、この生徒会室であることが最も大きな理由なのだろう。
好きな人と見る空はどうしてこんなにも美しいのだろう。

と、ぼうっと空を見ていると目の前にいる、好きな人である会長が
立ち上がった。そして窓のほうへと歩いて行った。

「綺麗だな・・・」

後ろで手を組んで、会長は空を眺めた。
私は空を見るのを止め、会長の背中を見つめた。
会長の背中は、あの日よりも大きく感じた。
!」

と、背中を見つめていると、名前を呼ばれハッと我に返った。
するとそこには目を輝かせて手招きしている会長がいた。

「こっちへ来てみないか?もっと近くで見たほうが綺麗だぞ」

私は席から立ち上がり、会長の隣に並んでみた。そして空を見つめた。本当に綺麗だ。息を呑むほどに。空に圧倒されていると会長は隣で大きく伸びをした。その気持ちよさそうな声に隣いる会長の存在を感じ、私はドキドキと徐々に胸が高鳴っていくのを感じた。

どうしよう、とまらない。
この音が会長に聞かれていたらどうしよう。



ふと会長が私の名前を呼んだ。私ははっとして顔を上げる。会長はそんな私を見てふっと笑って頭を撫でた。

「お疲れ様」

そう言ってもう一度頭を撫でた。大きな手が心地よい。けれど、胸の高鳴りは止まなくて私は視線を下に泳がせた。
どうしよう、頭が混乱してきた。もう止まらない。




「か、会長」
「ん?」

止まらなくなった私は何を思ったのか、会長に





「好きです」



告白してしまいました。



まさか恋しちゃうなんて!




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