何度も足跡をつけていくように疑った。





















私がいつも以上にしゃべっている。そう感じたのは今だった。今まで自分で夢中になっていてか、気づかなかったのだが、どうやら、私だけがしゃべっているようだ。馨は相槌を打ってくれるけれど、光は何事もなかったような顔をしてそっぽを向いている。私はそんな光の態度が気に入らないのもあってか、わざと馨だけに通じる内容を話した。



「ねぇ、さっきの授業中の話なんだけどさ、」



「うん」



「馨のノートに書いてあったあの変な生物はなんだったの?」



「あ、あれは僕が考えてる美術の作品だよ。失敬な。これでも僕は美術得意なんだから」



「っていうか、あんな絵描く単元あったっけ?」





アトリエで描くの!馨は大きな声で言った。私はそれを笑ってから光を少し覗かせて顔色をうかがう。光は平然とそっぽを向いていた。我ながら、本当意地悪っていうか、意地糞悪いなあ、そう思ったけれど、光が反応してくれないのが悪い!そう決め付けて話を続けた。




「アトリエ、楽しい?」



「うん、僕は結構あーゆーの好きだよ?」



「小さい頃私の部屋を絵の具で汚したりしてたもんね」



「あー・・・あれはー」



「大変だったんだから」





そう言うと馨は笑って「ごめん、ごめん」と言ってきた。私も笑って馨を見上げる。光は相変わらず口を噤んだままだ。と、もう正門まで来てしまった。目の前には車が2台。私のと2人の車だ。私の方の執事が駆け寄ってきた。私は目を丸くしてその光景を目の当たりにした。立ちすくんでいると、その執事は息を切らして私の前にやってきた。



「あの、お嬢様、早く家に戻ってください!仕事がまた入りました」



「急に?」



「はい、代理をお嬢様にとお母様が・・・」















そうだ、お母さん。昨日、私が帰るときに家の前に立っていた母。あの時言われた事を思い出す。母はいつもよりも悲しい顔をして私を見た。そして私をまじまじと見つめた後溜息をついた。



「理事長にあなたを監視してもらうように頼んだわ」



「なんで・・・?」




あの日のことを思い出す。私は体が震えるのが分かった。母が私をじっと見る。そして母の手が私の髪の毛に触れた。前までは触ろうともしなかったのに。私は身体をびくっと震わせ、その手を拒絶する。



「留学へ行く前から貴方のことは不審に思っていたの。急にたくさん出かけるようになったり、帰りも遅くなったり・・・このままだと仕事への支障をきたすかもしれない。だから、適当に理由をつけて理事長に学園内の素行監視を依頼したわ。」



「・・・」



母は私の髪からするりと手を抜かして門の戸をゆっくりと引いた。



「監視して引っかかるようなことをした場合は・・・分かっているわよね?」



「・・・はい」















、じゃあまた明日。撮影頑張って 」






はっと馨の声を聞いて我に返った。私は振り返って2人を見た。光はそっぽを向いている。なんで?光が怒ってる理由がわからない。私は光に話しかけようとは思わなかった。だから、わざと馨の名前を呼んでから手を降った。やっぱり。馨だけが手を振りかえしてくれる。



「では、お嬢様。どうぞ」



カバンを執事に渡して歩き出す。何度も途中振り返ったけれど光の顔に光が灯る事はなかった。



































僕はそっとの送迎車が行くのを目で追った。そしてそれが見えなくなると光の名前を呼んだ。光は相変わらずそっぽを見ている。




「ねぇ、、光が怒ってるって勘違いしたかもよ?」



「・・・」



「いいの?折角、仲直りしたんでしょ?」




そう言うとぴくりと反応する光。口を噤んでいても、体は正直なんだから。僕は溜息をついて光の肩に手を置いた。すると、光が震えだした。そんな光の唇から何かが言われることを僕はじっと目を凝らして待っていた。





「・・・わからない」





やっと開いた。僕は笑って光の顔を覗きこむ。





「何が?」




にどう、接していいかわからなくなった。しかも急に。さっき、準備室に行ったときは平気だったんだ。だけど、準備室を出た瞬間、何かおかしくなったんだ。なんでだろう。わからない・・・馨・・・俺、どうしたらいい?に、嫌われたのかなあ?、怒ってた?」




切なげに光が訴える。瞳が潤んでいる。僕は、本当に何かが崩れた感触が胸に現れた。苦しくて、苦しくて思わず胸を掴む。





















どうして僕はここで苦しい思いをしなきゃならないんだろう。















光の幸せは僕の幸せでしょう?














光の成長を喜ぶのだって僕の義務なのに。





















僕は先程までの光みたいに黙ってそっぽを向いた。胸をぎゅっと本当に痛くなるくらい掴んで。
















エニシダ


(棘が突き刺さる、そんな痛み)




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120305