違うテンポが流れる、それを、僕は受け止められなくて。



























朝、いつもより少し早く車に乗り込んだ私は車窓を見ながらいろんなことを考えた。第一に光のこと。光と今日、ちゃんと話さないと。でも、いつも通りを忘れないで話かけること。また光に迷惑をかけたくないのもあったが、光を支えてあげられるのなら支えてあげたいとも強く思ったからだ。光や馨は喧嘩をしてもいつも通りに返事をして、いつも通りの態度で私に話しかけてくる。その影に、背後に、怒りや、悲しみを抑えているのかと思うと、こちらも胸が痛くなる。そして、その2人ができるだけ、いや、100%そんな抑える気持ちが無くなるように、私はしたい。いつか、何も言わないで伝わるような3人になるために。


学校に着いたのか車が止まった。執事が車から降りて私の側のドアを開ける。私はゆっくりと車から降りて、校舎を見上げた。バックの背景に青く澄んだ空。また、この一日が始まって、この一日から何かが進化を遂げる。そう思うと、なんだか、学校へ入るのだけなのに覚悟を決めないと、と思ってしまった。私はふっと口元に笑みを浮かべてから歩き出した。


教室へ入ると、すぐに目に止まったのは藤岡君だった。光も馨も、今日は私が早く来た所為かいなかった。藤岡君は私と目が合うなり笑って駆け寄ってきた。



「早いですね」


「ちょっと、今日は早く来たくって。藤岡君はいつもこの時間なの?」


すると藤岡君ははにかんで笑っている。私も笑いたい気分になって微笑返す。藤岡君は、私がいなかったあの時どうしていたのだろう。双子と同じ日常を過ごして、何かを感じたのだろうか。もしかしたら、藤岡君は私の知らない双子の世界まで踏み込んでいるのかもしれない。我ながら、少しそれには不安を感じた。別に、嫉妬心があるわけじゃない。ただ、心の中でそれを想像すると、不安だったり、苦しかったり、もやもやしたものが、私の心を包んでしまう気分になるのだ。これは一体・・・



「「おっはよーハルヒ、!」」



と、そんな風に心に雲がかっているときにドアが開いて2人が入ってきた。2人は揃っている、いつも通り、光が笑みなら馨も笑み、そんな風に。昨日の放課後を忘れ去ってしまうかのように。2人は乱暴に椅子を引いてどさっと座った。



「あのさ、乱暴に座るのやめなよ。いくらなんでも椅子壊れるよ?」


「いや、平気だよ。そんなに安物な椅子じゃないから」


「庶民学校と一緒にしないでくんない?」


ああ、いつもの2人だ。別に藤岡君を囮に使ったわけじゃないけど、お陰でいつもの悪戯双子が拝めた。私はほっと胸を撫で下ろした。と、安堵の溜息をついているとふと、気がついた。



「「あれ、2人とも席逆じゃない?」」



1人で言ったつもりが声が重なっていた。と、その声の主を辿ると隣に藤岡君が立っていた。私は笑って顔を見合わせる。すると、光と馨はちぇっと小さく舌打ちをして言った。



「ていうかさ、」


「なんでバレるわけ?」




髪型も変えたのにー。そう言って髪をいじる2人を私と藤岡君は見て笑った。やっぱり。私は分かったけど、それと同じくらの速さで藤岡君も2人を見分けられる。すごいな、って正直に思えばいいのに、私の心はそううまく噛みあわない。不覚にも、思ってはいけないような、感情が生まれてしまいそうだ。



「え、だって普通にいつもと違うし・・・」



「・・・」



黙ることしかできなかった。ショックだったのかもしれない。私は俯いて自分の椅子に座って気休めのためにカバンの中身を見た。2人と喋っていたら私はきっとわからない気持ちに悩まされることになるだろう。すると、やっぱり。2人は悪戯な人だから、私の机まで来て机に手をついた。同じタイミングで。顔を上げると2人の顔が悪戯に笑っていた。



「つーか、達にバレても別に平気だけどさ」


「今日は一日このままでいるから。あと、席も僕じゃなくて光が隣だから。いい?」



私は俯いて小さく頷いた。すると、2人の手が降ってきた。どさっと頭に重い振動を覚えたが、私はしぶしぶ顔を上げた。



「「何、乙女になってんのー?可愛いー」」



私は一瞬にして顔が熱くなるのがわかった。恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。がたっと立上がって2人の手を払いのけて私は教室を出た。ダメだ、覚まさなきゃ・・・






















「あーあ。行っちゃった・・・なんかおかしいね、



「元気は・・・あるみたいだけど?」



「まぁ、いいけどね。僕は全然オッケーだし?問題は光だよ」



「は?俺?」



「うん、ほら行ってきなよ」



「は?だから、馨何言って「ほらほら」






強引に光を追い出すと、馨は溜息をついた。そしてハルヒの元へと足を運んだ。ハルヒは読書していた本から目を外して馨を見上げた。



「・・・あれ?光は?」


「ちょっと、野暮用」


「ふーん」


「でさ、ハルヒ、来週の土曜に僕らとデートしてくんない?」


は?」


「たまには1−Aで親睦深めようよ」



「他に誰が行くの?」



「僕と光と



「1−Aっていうか、それ・・・ホスト部だよね」





硬い事はいいとして、馨は弾むように言う。ハルヒは不思議そうに馨を見上げてから溜息をついた。これは、ハルヒのOKの合図だ。馨は笑ってハルヒに言った。




「あ、ちゃんと、女の子らしい格好してきてよね」



「・・・はあ・・・」








































なんでこんなに熱くなってるんだろう。本当に私って滅茶苦茶だ。やりたいことも全部放棄しているような・・・惨めだなあ、私。廊下をとぼとぼと歩いて校舎と反対方向へ行く足を方向転換させ、再び教室の方へと向かわせた。すると、前から誰かが走ってくるのがみえた。その人は私の名前を呼んだ。


ー!」


「光?」



光は私の所まで走ってきた。そして目の前で立ち止まって呼吸を整える。顔を上げて光は笑いかけてきた。それに戸惑う私。会いたいって思ってたのは私なのに。



、昨日は電話・・・ありがと」



「あー・・・うん。大丈夫?」



「大丈夫。っていうか、あんなこと昨日言っちゃったけどあんなのって本人に言うことじゃないよな」



光は笑いながら言った。私はそれを首を降って否定した。すると、光の顔が真顔に変わった。私もしきりなおして顔を変える。



「だから、あれは忘れて」



忘れていいものなのかは、正直分からない。あんな風に、悩みを打ち明けてくれたのは、私を仲間だと思ってくれているからと解釈していいんだよね?悩みを話せる相手なんだよね?それでいいんだよね?そんな風に嬉しさをくれた言葉なのに、それを忘れていいのか・・・
























良くないにきまってる。





















「嫌だ・・・」



・・・?」



「忘れるなんてできない。だってあれは、私の宝物だから!光が私をちゃんと友達としてくれている大事な証拠だから!」



私は声を張り上げて言った。光は吃驚した顔をしたがすぐに戻って真面目な顔になった。けれど少し笑いが混ざっているよなそんな顔でもあった。



「じゃあ、忘れなくていいよ」



どっちでもいいの?私は不安になった。光はそんなに大事じゃなかった?そういうつもりで言ってくれたんじゃないの?自分が恥ずかしかった。



「だけどさ、」


光は頭を掻きながら言った。だけど、その目は真っ直ぐに私を見ていた。


「これからも、にちゃんといろんなこと話していくつもりだから。僕はまだ全部を上手く話せないけれど、自分なりに努力して話すから。だから、これからも・・・」




光の言いたい事がすごく伝わった。言葉という薄っぺらい壁じゃなくて分厚い形で。私は言わなくていいよ、と合図のかわりに光の胸をトンと押した。光の口が閉じる。私は見上げて笑った。




「言わなくていいよ・・・友達だから、ちゃんと伝わってる」




本当だよ?伝わっているから。光は小さく「うん」と頷いた。友情ってこんな風に大きくなっていくのかなあ?小さく始まったあの日から今は何年も経っているけれど、今ではもう大きすぎて持ち上がらないくらい重い。だけど、中には欠陥があったりしてその穴があるからこそ、その友情は崩れやすくなったり、喧嘩を招く。だけどそれを全てクリアしていって最後に見えるのが本当の友情だと思う。それを気づかせてくれたのは、光だった。光には言いきれないくらいのありがとうを言わなくちゃ・・・これから、毎日言っていくよ、心の中でそっと。



?」



名前を呼ばれて我に返る。すると、光は笑って私の頬をつねった。そして私が不機嫌な顔をすると光は無邪気に笑った。



「やっぱり、にはシリアスは似合わない」



「じゃあ、何が似合うのよ」



「笑顔」



即答だった。即答だったからか恥ずかしさも倍増だった。私は光の背中をぐいぐい押しながら歩いた。そして俯いて自分の顔を光に見せないようにする。



「どこで、そんなの覚えてきたの?」



「ホスト部」



「そういう手口ね・・・」



「ひどいなお前。これくらい言っとかなきゃ姫達は喜ばないんだよ」



「ふーん」



「まぁでも、」



「?」





















「・・・・なんでもない」




「何よ?」





















このとき、光にはまだだから、とは言えなかった。






















ミモザアカシア


(
まだその友情には罠があるなんて思わないけれど)


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120308