小さな真っ白な、






















今日はなんとか夕方までおなかが持ちそうだ。ランチを食べに行く時間がもう無いので、私はおなかを押さえながら教室へ戻った。すると、いきなり私の前に数人の女子生徒が立っていた。



「聞きましてよ!ちゃん」



「え?」



「環先輩に告白したんですって!返事は?」



OKNOちゃんったらチャレンジャーですわね!」



私は唖然として立っていた。さすが、須王環。噂が立つと回るのが早い。別に、告白していたわけじゃないからそれは事実じゃないとしても少し心がどきっとした。



「違うよ、ちょっとお話しただけだよ?」


「あら?そうなの?てっきり私達ちゃんが環先輩に告白したのかと・・・」


「留学する前もよくこの教室に環先輩来ていらっしゃってたから・・・ホスト部の面々と何か面識がございますの?」



女子生徒達の真っ直ぐな瞳に私は思わず俯いた。普段仲良くはしているけれど、こういうところ・・・まだ慣れないみたい。私は早く否定すればいいものをもったいぶって無言になった。と、後ろから誰かの腕がぐいっと私の首に回ってきた。そしてその人の方へ引き寄せられる。



は、なーんにもないよ?ただ、僕らとまぶだちだからホスト部の先輩もちょっと知ってるだけ」




顔を見上げると馨だった。馨は私の視線に気づいてにかっと笑った。また、助けられちゃった。女子生徒は「そうなんですの?羨ましいですわ!」とキャッキャ言って戻って行った。それを見届けてから馨は大きな溜息をついた。



、危ないところだったね」



「うん、ありがとう」



「つーかだめじゃん。僕らがいるからいいけど、同性の友達少ないじゃん」



「いや、いるよ?」



「もっと輪を自分から広げていかないと、僕らみたいになっちゃうよ?」





悪戯そうに、軽々しく馨は言ったけれど、それはしゃれにならないことだった。私は昔の双子がどんな風だったか知っている。だからこそ、そんなことを言われると対応に困る。俯いていると馨は私の頭をくしゃくしゃにした。



「冗談通じないなーは」



「馨!」



「ん?」




なんでそうやって、





「馨は今、幸せ?」





綺麗に消し忘れる事ができるの?





ずっとずっと、疑問だった。













馨は一瞬止まった。私はぐっと真っ直ぐに馨を見つめた。すると、馨は噴出した。




「うん、幸せだよ?」


「・・・そっか・・・」




その幸せって何?そんな風にも聞きたかったけれど、私はそっと心の中に秘めておいた。馨は楽しそうに私を見つめる。その笑顔に偽りは無いの?そうやって聞きたいよ。だけど、それを聞いたら馨はどうなるかな?それを考えると、聞け無くなるんだ。





















授業が始まると、光のしょうもない溜息が何度も聞こえた。それを聞くたび、静かに笑って光を見ると、光は恥ずかしそうな顔をした。いつもと同じだ、よかった。そう思って胸を撫で下ろしていると、光は私の机を指差して小声で言った。



「ここにあった紙どうした?見た?」



首を横に振ると光はえ!?という顔をして私を見た。私は見覚えの無いものに首を傾げるしかなかった。と、ふと机の中から何か白いものが飛び出している。それを引張ると小さな紙切れが出てきた。光はそれを見て大きく頷きながら指をさした。紙をめくって紙面を見る。すると、そこにはこう書かれていた。「来週の土曜、1-A親睦会。待ち合わせは学校の正門。行く人はハルヒ・僕ら・何これ・・・?そういう顔つきで光を見ると、光はノートに文字を書き始めた。馨とやっぱりそっくりだなぁ、そう思った。書く時の姿勢も、全部。だけど、2人は違う。それは分かっている。逆に私が苦手なのは2人を同一視すること。それを打ち明けたら2人は何て言うかなあ?そう思って眺めていると光はノートを私の方へずらした。それを覗きこむ。




4人で遊ぶんだよ」




私も続けて書く。




「だって、私居ていいの?同性の友達だけで遊んだほうが・・・」



「いーの。ダブルデートだから」



「は?あのー・・・どう見ても女は「いーの。デートっつったらデートなんだよ」




紙面での会話とはいえ、光の文字にははっきりとしていて少し強引さを感じさせた。私はそれを見て少し納得の行かないところも会ったけれど、頷いた。久しぶりに、遊べる。光は頷いた私を見て笑った。




















放課後。授業も終わり、空がオレンジ色になりかけたころ。私は、校舎を走っていた。そう、お客様が来る前に空調を整えて置かないといけないのに、今日は先生の話が長引いたせいか、少し昨日より時間が遅かったからだ。必死になって走っていると、私と同様、後ろから足音が聞こえる。振り返ると、そこには誰も居ない。なんなんだろう・・・なんてわかっていないふりをしてみたけれど、これはきっと理事長のボディーガードじゃないか、そう思った。きっともう、作戦は実行されている。このまま、ホスト部に向かっていいのだろうか・・・。入って行ったらそれはそれで部員に迷惑をかけるかもしれない。私はその場に立ち竦んだ。足音が聞こえなくなる。どうしよう・・・どうしよう・・・誰もいない廊下で一人私は声なき声で叫んだ。




「どうした、?」





と、途方にくれていたときに後ろから低い声が聞こえた。吃驚して振り返るとそれは教科書を持ったモリ先輩だった。モリ先輩を見て私は安心してかぺたんと座り込んだ。




「よかったです・・・」



「何かあったのか?」



「いや、あの・・・実は・・・」




この際だから、モリ先輩にも言ってしまおう。私はモリ先輩にとりあえず手を貸してもらって立ち上がると、真っ直ぐにモリ先輩を見て耳を貸すように言った。




全て話し終えると、モリ先輩は辺りを見回した。早速、心配してくれる。私はお辞儀をして再び走ろうとした。するとモリ先輩が私の腕を掴んで言った。




「迂闊に走らないほうがいい。着いて来い」



モリ先輩は遠くを見ながら言った。私は小さく頷いて一緒に行ってもらっているんだからそう思ってモリ先輩のカバンを代わりに持った。



「モリ先輩、ところでハニー先輩は?」



「光邦は今日空手部の助っ人に行った」



「埴之塚家は強いですもんね」



「ああ」




そういえば、私はモリ先輩とハニー先輩のような心で繋がっている関係をあこがれていた。何も言わないで通じれるなんて、そんな素敵なことはないだろう。私は知らない間にモリ先輩をじっと見つめていた。と、その視線に気づいてモリ先輩は不思議そうに私を見下ろす。



「何か、ついているか?」



「あ、いえ。いいなあって思ったんです」



「何がだ?」



「モリ先輩と、ハニー先輩って本当に絆で繋がっているなあって思ったんです。ほら、親子っていうわけじゃないのにそんな風に他人から始まって家族同様になれるなんてすごいと思います。私、そういうのにあこがれてましたから」




私の家族はいつもバラバラだ。まとまったり、みんなで笑いあった事なんてない。大抵は散らばってそれぞれ独特な感情を抱いて相手を寄せ付けないから。私はもっと母とも父とも姉ともおしゃべりしたい。なのに、その壁を崩すなんてできないのだ。



私は、俯いて余韻に浸っているとふと、モリ先輩は私の頭に手を置いた。そしてそっと優しく微笑んだ。




にも、そういう人できると思う。心から大切に思える人が、できると思う」



私は、嬉しくて涙が出そうだった。だけど、必死に堪えて笑ってモリ先輩を見上げた。



「ありがとうございます」






そうだ、大切な人は身近なのかもしれない。だけど今はまだ未熟だから見出せないんだ。

だけど、だけど、





きっと見つけられる。




いや、




見つけるんだ。















タイム



(
宝物は自分で探し出すんだ)




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120308