夕日のオレンジが真っ暗な闇のような青色に邪魔されそうになっている空を見て私はペンとノートを片付けた。ノートの表紙には「ホスト部お菓子日記」と書いてある。そう、これは私が作った。調べたお菓子をまとめたり、今日出したお菓子を書いたり・・・だけど、問題が一つあった。それは、これをどこに隠すか、だ。光と馨に見つかったら、きっとふざけて笑われるだろう。それは嫌だ。私は準備室の中をぐるぐると回って隠せそうな場所を物色した。





ちゃんー、もう部活終わったよー?出てきてー!反省会するって!」



「!?」





吃驚した。可愛らしい声がするかと思えば、後ろにはハニー先輩が立っていた。ハニー先輩は私の視線に気づくと嘘偽りない笑顔を作った。私は溜息をついてから頷いてハニー先輩に笑いかけた。




「あ、それどうしたの?」



「いえ、ちょっと光と馨に見つかったら厄介だと思って隠そうかと思っていたんです」







そう言うと、ハニー先輩は辺りをキョロキョロ見回した。そして意味深に私に笑いかける。私もつられて笑う。するとハニー先輩は私の手からノートを抜き取って戸棚にしまいこんだ。






「あの・・・」



「大丈夫っ!ここなら僕しかみないから。しーっだよ?」








人差し指を陽気に立てて笑うハニー先輩に私も笑った。なんて、可愛いんだろう。ハニー先輩なら、失礼かもしれないけれど、子役モデルに大抜擢だろうな・・・なんて思ったりもした。すると、ハニー先輩は私の前に来て小指を出してきた。





「指きりげんまんしよー?」





「え?」





「ほら、ちゃんも早く指出して!」





「あ、はい・・・」








指をゆっくりと出すとハニー先輩の子供体温みたいに温かい指のぬくもりを感じた。ハニー先輩はにっこり笑って歌を歌う。可愛らしくて私は歌わないでそんなハニー先輩を見つめた。と、ふと歌が止まった。私がハニー先輩を見ると、彼は何かを思い出したかのように口を大きく開けた。






「どうしたんですか?」






「僕、ぜーったい崇に言わないよ!だから2人だけの内緒だね!」








そう言ってハニー先輩は歌を続けた。なんだ、それがいいたかったのか・・・私は笑って大きな声でハニー先輩に負けないくらい歌った。




























「では!これより反省会を始める!鏡夜、今日の来客人数は?」





「昨日より上回ったな。あと、、お前のおかげで空調もばっちりだった、これからもその意気で。あと明日出すお菓子は取り寄せ完了しているな?今日はまだ届いていないが」





「生菓子なんで、直前に届くかと・・・」





「そうか、ならいい。それと、各部員他には何かあるか?」







鏡夜先輩がきりっと姿勢をただして言うとだらけたかのように光と馨は机に伸びる。それを苦笑い気味で見る私と藤岡君。








「「鏡夜先輩、に容赦なーい」」






「当たり前だ、部員なら部員相応の扱いが普通だろ」






「「でもさ、女子だし!」」






「・・・まぁな」









一瞬間があった。私はなんだかよくわからなかったけれど、鏡夜先輩が言葉を濁すのは珍しい。私はきょとんとして光と馨を見る。2人は悪戯をしているときみたいな顔をして鏡夜先輩を見た。一方、藤岡君は苦笑いをし続けている。







「「ま、僕らは反省点なーし。ハルヒは?」」





「いや、いつも通りでしたよ?特に何も・・・」





「僕と崇も大丈夫だよー?」







鏡夜先輩はそれを聞いて頷き環先輩を見た。環先輩は頷いてから咳払いをして言った。もうその頃には光も馨も荷物をまとめ終えていて。





「「じゃ、帰るよー。、行くよ」」





「え・・・あ・・・」





「待てい!お前ら号令をしてからだ!さよならは!」





そんな環先輩の声が聞こえる頃にはもう2人に手を引張られドア付近まで居た。環先輩に悪いので会釈をすると、環先輩は泣きそうな声で「までそんな父さんに冷たいのかー?」と言っていた。それを聞くと私は号令をしなきゃと思ったのか環先輩の居るほうへ戻ろうとする。すると藤岡君が私の背中をそっと押した。






「相手にしなくていいですよ、ああいうときは帰ったほうがいいんです」






「そう、なの?」






すると藤岡君は笑顔で頷いた。それに悪戯に笑う光と馨。ぶつぶつの呪文みたいなものを唱えている環先輩。しそうなハニー先輩とそれを優しく見守るモリ先輩。パソコンの電源をつける鏡夜先輩。全部、私の大好きな光景だった。私は心温まる思いで音楽室を出て行った。



























「今日は一段と疲れたー。馨、帰ったらゲームやろうぜ」



「あーいいね」



「ゲームやる元気はあるんだ・・・」



「「いーの、僕らより頭いいから」」



「五月蝿い!」




私がカバンで2人の背中を叩くと2人はしょうもない声をだして私を少し睨んだ。私はののしったような顔つきで2人を見た。すると2人はにやりと笑って反撃を仕掛けてくる。




「「髪の毛ぼさぼさにしてやる!」」



「いやー!」




髪の毛をくしゃくしゃとする2人の顔がとても楽しそうだった。私は頭を必死に抑えながらそれを阻止する。だけど、こんな日常、私は望んでた。後は、監視さえなくなれば・・・
























「君、ちょっと理事長室まで来てくれるかな?」




と、ふと誰かの声が聞こえた。それに振り返ったのは光と馨だった。私はどうしても嫌な予感がして振り返る事ができなかった。だけど、その誰かは「真ん中の女の子なんだけど・・・」と言った。私はゆっくりと振り返る。




やっぱり、この人さっきから私をつけていた・・・









「光、馨先帰ってて」




「「え、いいよ。待って「帰ってて!」

























一瞬時間がとまったような気分だった。私はわざと笑顔をつくって2人の顔を交互に見た。











「ゲームやりたいんでしょ?」













































「理事長、連れてきました」





「開けていいぞ」






なんだか、悪さをして連行されている犯人みたいだ。私は俯いて開かれた戸の下の方をじっと見つめていた。目を合わせたくない。








「君、いい度胸をしているね」




「・・・何もしてないです」




「おや、先程も常陸院の双子とじゃれあっていたではないか」




「あれはっ・・・」







ダメだ、この人に何を言っても聞かないだろう。私は諦めてそのまま口を噤んだ。それを愉快に見る理事長。







「まぁいい。もう何日見ても同じ事だ。だが忘れるな、お前はもう、」






「・・・」
















言わなくてもわかってる、先のこと。


















「あの部に出入りするな」







私は震える手を押さえられなくてぐっと顔をあげた。涙が流れそうな瞳を必死で堪えて理事長に視線を合わせる。真っ直ぐな目がぶつかり合う。







「絶対に、私はあの部活を辞めません。それだけは絶対です。理事長や両親に何を言われても、何をされても、辞めません!辞めたら・・・私の負けですから」







「勝算が無い君が言う台詞じゃないよ」






「いえ、絶対に私は理事長にも両親にも認めてもらいますから!」




















自分にも何が起きたか分からなかった。私じゃないような私が勝手に口走ったんだ。私は今更どうにもならないのに口元を押さえて後ろへ一歩下がった。すると、理事長は不敵に笑って私を見た。









「どこからその自信が来るかわわからないが、楽しみにしているよ」






っ・・・」













私は乱暴にドアを開けて一目散に走った。もう知らない、何も。仕事しているのがばれるとかその前に、理事長は私を何か違う目で見ているんだ。だけど、これは絶対に言えない、今度こそ言えない。環先輩にも、誰にも・・・私は震える手を宥めようとぎゅっと強く握った。
























「理事長、少し苛めすぎでは・・・」






珈琲カップを持って理事長の前に来た秘書は言った。それを愉快に見る理事長は悠々として口を開いた。






「芯から強い女性とは傷ついて育つ、か」




「は?」




「いや、とある文献に書いてあったのを思い出してね」





にやりと笑う、理事長に秘書は唖然として目を細めて理事長をしらじらしく見つめた。






「まさか・・・」




「実験なわけじゃないんだ、感じるんだ。あの子にはきっと不思議な力がある」





「随分と手荒い気がしますが?」





「いや、あれくらいが丁度いい」













理事長が見つめた窓には走っていくが見えた。それを理事長は見つけると笑って小さく呟いた。









「ごめんね、決して意地悪するつもりはないんだ。ただ、ヒントを聞きだしたいだけなんだ。だけど、手荒くしか君には接する事が許されないのだ」























































私は、下手くそだ。






自分の気持ちを何かで隠そうとしている。





割り切れないんだ。






とてもとても、下手くそな人間なんだ。










ダチュラ


(偽りなんてもうしたくないのに)




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120308