見えない、翼、閉じ込めて























、なんだか血相変えて行っちゃったね」


「何かあったのかなー?」



僕らが見つめる先にはもうなんていなくて、ただオレンジ色に邪魔されそうになっている地面が続いていた。僕らはそれを何の当てもなく見続ける。







「ねぇ、僕さ」



「ん?」






僕は光の気持ちに気づいてる。だから、言いたい事・言えない事ってたくさんあるんだ。僕は顔を上げて光の目を真っ直ぐに見た。




のこと本当にいい奴だと思ってる、光はどう思う?」




「何をいきなり・・・」そんな目で見られたけれど、僕はたじろがないで真っ直ぐに光の返答を待った。こんな回りくどい言い方しかできない僕は頭が悪いかもしれない。だけど、だけど・・・





「馨、からかってんの?」




「違うよ、マジで聞いてるの」




「そんなの、聞かなくてもわかるだろ」





少し笑って光は言った。そんな風に言われてしまったら、僕は僕で解釈してしまうよ。それでいいの?光は魔法を解こうとしている、そういうことじゃないの?光の優しそうに笑った顔とその返答に僕は不安がどっと押し寄せてきた。
















こんなんで、いいのかなあ?































次の日の朝、私はいささか活気も無く教室に入った。昨日の理事長との件があってか今日は必要以上に部員の人(特に同じクラスの3人)とは話さないように心がけようと決心した。が、それは一瞬にして消え去ってしまったかのようだった。もうすでに、目の前に光と馨がにこやかに笑っているのだ。



「「昨日はどうしたの?」」



「いや、別に何もないよ?」





それだけ言って2人をかわして席へつこうとした。と、私と同じ方向へ体をずらす2人。これは俗に言う、「とうせんぼ」だ。





「光、馨?」




「「ん?」」



「どいてくれない?」



「「無理」」







私は溜息をついて後ろを振り返り遠回りをしようと歩いた。2人の舌打ちやつまらなそうに嘆く声が途中幾度も聞こえたけれどそれを心の中で謝った。いつもなら、ちゃんとからかわれているのに、今日からはそれができない、ごめんね。光や馨にとってはつまらない人間になっちゃうけれど。そう思って私はゆっくりと席についた。






「やっぱり」



「昨日、絶対何かあったね」



「ま、部活に行けばも話してくれるでしょ」



「そうだね」









このとき、光の顔が曖昧だったのを馨は見落としていた。






























かったるい授業も全て終了し、問題の時間がやってきた。私は急におなかが痛くなったり、胸騒ぎが止まらなかった。きゅっと胸の前で手を握る。今日は部活、お休みします。そう言いに行くことさえもできない私には罪悪感という名のしこりが心に残っている。とりあえず、光・馨・藤岡君は教室を出て行った模様。私は溜息をついて机に項垂れた。時計を見るともうそろそろ営業の時間だ。行くなんて事は頭に無かったけれど、残っている、罪悪感。せめて、休みの連絡だけでも・・・そうは思ったが、やっぱりそれだけでは帰ってこれる気がしない。初めての日もそうだったから。ああもう、何が何だかわからなくなってきた。私は腕の中に顔を埋めた。

































「「え!?が来てない?」」





「そうなのだ、今日は早めに営業を終わらせてミーティングをしようと思っていたのだが」





「・・・やっぱりおかしいよ」




「うん・・・」






光は小さく頷いた。そんな彼を環は心配そうに見る。すると、後ろから鏡夜がやってきた。鏡夜は取り乱す事無く淡々と続けた。





「環、お前は知ってるだろ?」







「・・・?・・・ああ、あのことか。なんだ、光と馨は聞いてないのか?」








「「え?」」







環は頭を掻きながらが理事長の監視下に居る事を伝えた。すると2人は血相を変えて俯いた。それを心配そうに見る他の部員達。







「そんなの・・・っ」




「なんで言ってくれなかったんだろ・・・」






光は柱によりかかって目を泳がせる。馨は追い詰めるような顔つきで窓の外を見た。






「だが、物は考えようだ。光と馨に言わなかった理由が自身にもあるんじゃないか?」





鏡夜は2人の前まで歩いて来て言った。2人は顔を見合わせてから鏡夜を見上げた。





は、お前らに心配をかけたくなかったんじゃないか?少なくとも俺はそう思うよ」




後ろから環が穏やかに笑って言う。ハルヒはそんな会話をいそいそと目で追いながら眺める。ハニー先輩やモリ先輩もソファーからこちらを見ている。





は、今まで光と馨に数え切れないほど迷惑をかけてきたと思っているんだろう」





鏡夜はぱたんとファイルを閉じて言った。相変わらず、2人の顔は曇っている。






「「・・・馬鹿じゃないの!あいつ!」」










乱暴に言い放つと2人は同じペースでドアの方へ走った。それを見送る他の部員達。それを見ているだけでは気がすまなかった環は2人を呼んだ。2人は振り返った。そして怒ったような、嬉しそうな顔をして言った。





















「「お兄ちゃんズから怒ってやるよ!」」



















































結局、部活に行ってるのと変わらないくらいの時間になってしまった。空の色もいつもと同じに見える。やめやめ、帰ろう。もし部員達と帰りが重なってしまったら気まずい。私はカバンの中に荷物をまとめ始めた。入っている教科書などを目で追いながらカバンへ入れていくという簡単な作業なのに、私には難しかった。手が震えているのだ。馬鹿みたいだ、本当に。あんな風に宣戦布告みたいなことをしておいて震えて怯えている私を想像すると本当に馬鹿だ。それを考えると泣きたい気持ちになったが必死に我慢した。




と、ふとひらりと紙が落ちる。拾って見ると、そこには来週の日曜の約束が書いてあった。もう、部員達とは関わりが無くなるから、関われないからこんなのも関係ない・・・。そう思うともう我慢なんて到底できなくて、私は顔を手で覆いながら涙を流し戻そうと懸命に頑張った。







「「!!」」






がたっという音がしてそのドアの方を見て見ると、いるはずがない光と馨が立っていた。私は涙を流しているのを見られたくないと思い必死に目を擦る。そして目がかゆいなーなんて震える声で小さく呟いた。どんどん2人が近づいて来る。私は目をぐっと閉じてその視界を遮断した。





「馬鹿じゃないの、




「何、いきなり2日目からさぼってんの?」






2
人は無表情のような声で言い続けた。怖い、事情が話せないから倍に。私は涙をぐっと瞼に閉じ込めた。








「・・・ごめん、私今日はお腹痛くて・・・」









ああ、なんて私は間抜けなんだろう。こんなの信じる人いないのに。









「「ふーん」」











こういう時の2人の反応は怖い。私は震え始めた肩を見られないように小さくなった。










「じゃあ、僕らが保健室連れて行ってあげるよ」






「ちゃーんと先生に説明しようねー」








ぐいっと腕を掴まれて強引に私を立ち上がらせる2人。私は2人の手を振り払った。とたんに、私の額から手が離れた。涙がぐちゃぐちゃになっていたり、頬を伝っていたりするのが2人の前にあらわになった。それを見た2人は不敵に笑った。






















「「ウソつかなくていいのに」」



























2
人はぐいっと優しく私を胸の中に閉じ込めた。私の目からは今まで我慢して来た分の涙が一気に出た。2人の胸が、温かい。








「殿から聞いたよ」




「もう僕ら全部わかってる。だから、これからはさ」




「「僕らがを守るから」」

























言わなくていいのに・・・私は小さく呟いた。環先輩はお人好しだから言ってしまったのだろう。だけど、こんな風に安心できたのは彼のお陰だ。私はぎゅっと2人のブレザーを握った。





「いつになく素直だね」




「ほんと、毎日これでいいのにね」






2
人のからかった声にも反応できないで私は子供みたいに目を閉じて安心を何度も確認した。






























!」






と、誰かの声がした。顔をゆっくり上げると、そこには環先輩や、鏡夜先輩、他の部員達が息を切らして立っていた。私は時計を見た。まだ営業時間ではないか。





「先輩方・・・藤岡君」





「何をしている、早くお菓子の準備をしたまえ!」




「お前にしかわからない仕事だ」




ちゃんの選んだお菓子、早く食べたいなっ」




「ああ」




「皆さん、待ってますよ」










何事もなく彼らは私に口々に言った。私は光と馨の顔を見上げる。すると2人は目を閉じて頷いた。もう一度、前に視線を戻す。そこにはにっこりと笑顔な人達が私を必要としてくれていた。私は小さく頷いた。




だけどもう、嬉しすぎてその場にしゃがみこんだ。









!」



ちゃん!?」








環先輩とハニー先輩は一番に駆け寄ってきた。そして私の背中をゆっくりと摩った。その後に続いて光や馨もしゃがみこんで、部員全員が私を取り囲んでいた。私はゆっくりと顔を上げて一周ぐるりとみんなを見上げた。みんなの笑顔がまぶしい。私は、ここにいていいんだ。










「私は、ホスト部が大好きです」










そう言うとみんなは頷いた。私は嬉しくてそのままもう隠さないで泣いた。


























もう逃げ隠れなんてしない、










この部活が、この部員達が、大好きだから





































「全く、部を放棄してまで彼女を大事にするとは・・・今までじゃ考えられないな」





部員達が笑いあうのをそっと影から理事長は覗いていた。そしてその隣に秘書が厳しい顔つきで立っている。





「覗き見なんてよくないですよ・・・」




「いや、いい物が見れた」





そういった理事長の顔がいつになく嬉しそうで秘書も目を見張っていた。














「これは、彼女に謝らなくてはな、そして両親に伝えよう『彼女は部の宝物だと』」






「・・・最初からそんなことしなきゃよかったんじゃないですか?辛かったでしょう?理事長も」






「そりゃあそうさ!あんな健気な女の子を苛めるなんてもう耐えられなくて・・・!でもまぁ、彼女の家についてはまだ見物だがな。何かを隠している、そんな気がするんだ」









秘書は溜息をついてから理事長に顔を向けて合図をした。理事長は頷くと静かに笑って歩き出した。






















「環と・・・うん、そうかそうか・・・」






「?」




















アレカヤシ


(心の策士はすぐそこに)



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120310