やっと完成した、私だけのパズル
























泣きながら皆に支えられて音楽室へ行く途中、様子見に先に歩いていてくれたハニー先輩が私を振り返って私の隣に居る光と馨に頷きかけた。すると2人は私の腕を引張ってぐいっと柱の影へ寄せる。これはきっと女子達に私がばれないようにという心遣いだ。そんな風に考えると嬉しくて、私ははにかんだまま2人の背中を見つめた。と、2人の視線が急にこちらへぶつかってくる。



「何笑ってんの?」



「僕ら、可笑しい?」



私は首を振って声を殺して肩をすくめて笑った。すると、2人は調子に乗ったのか、こちらを振り向くと、私が逃げられないのをいいことにほっぺをつねったり、髪の毛をくしゃくしゃにしたりした。私が小声でやめるように言っても2人が聞くはずも無く、無邪気に笑って続けた。こんなに笑ったの久しぶりだ。



「おい、じゃれあってる暇はないぞ!というか我が子になんてことを・・・!」



柱の影から環先輩が覗いてきた。環先輩の顔を見ると、2人は私の首に腕を回してきた。



「「兄妹だもーん」」



「む、まぁいい、とりあえず今のうちには準備室へ!」



「は、はい。ほら、2人とも離して」



私は動きにくそうに2人の腕から逃れた。すると2人は惜しそうにぶーぶー言った。だけど、私が振り返って「がんばって」と声をかけたら笑顔で素直に環先輩へついていった。言って欲しけりゃ言えばいいのに。なんて幸せそうな溜息をついて私は準備室に入った。

























相変わらず楽しそうな声が聞こえて私も混ざりたいなんてことも思ったけれど、私は目の前にある書類を片付けなければ。目の前に広がる真っ白な紙に羅列のごとく並ぶ文字達。それを見ていると睡魔が襲ってきた。だけど、私は部員達の顔を思い出しては嬉しくなってやる気が沸いてきた。小さくガッツポーズをしてから私は再びペンを持って書類に向かった。





と、ふと携帯のバイブが鳴った。メールだ。私は携帯を片手で開けて片手でペンを走らせながら画面を見た。すると、馨だ。一体、今は営業中だというのに、どうして?そう思って本文のページを開いた。が、文章なんてなくて、白紙。とふと画面の下の方に目が行った。すると、そこにはスクロールするときに現れる逆三角形が見えた。私は携帯のボタンをゆっくりと押す。上に出ていた差出人の欄が消える。そしてやっと本文が見れた。それはいかにも常陸院らしいメールスタイルだった。私は小さく笑って気を取り直して本文を見つめた。







「今出れる?」






私は吃驚しておそるおそる準備室のドアを開けた。明るいホスト部が元気に営業中だった。だが、確かに馨の姿が無い。私は静かにドアを閉めてから廊下に繋がるドアを見た。そしてゆっくりとドアノブを引いた。殺風景な廊下が広がる。それを見てから悪戯?そう思って私は首を傾げて準備室へ戻ろうとした。と、その瞬間だった。私はぐいっと腕を引かれて体勢を崩す。すると後ろに何かの支えがあった。振り返るとそこには馨が笑って立っていた。





「見つけた」






「馨?ちょっと、いいの?」





「別に?僕は構わないよ。だって僕らの今日分のお客さん終わったから」





「え・・・それにしても光は?」





「あー、光は今ハルヒにぞっこんだから」







不敵に笑って言う馨に私は戸惑った。それにしても、部活から抜け出すのは第一、鏡夜先輩が許さないんじゃないかと。私は腑に落ちない気分で馨を見上げた。すると、それに気づいた馨は私の手をぐいっと引いた。






「ね、ちょっと抜け出さない?」





「いいの?馨、部活「いいって。バレないバレない!」







馨が無邪気に笑うので私はそのまま手を引かれるまま歩いた。随分と、馨にしては遅いスピードだ。途中先生達にも会ったけど、馨は知らん振り(私は恥ずかしかったけれど)で通り過ぎた。と、ふと前に目をやると馨の背中が見えた。馨の背中、こんな風だったっけ?今まで2人で先を行くときも見ていたけれど、今日見た背中は一段と寂しそうだけど、優しい雰囲気だ。こんな矛盾しているような背中、馨もまた重い荷物を背負っているのだろうか。だとしたら馨も光同様一人で頑張ろうとしているのだろうか。





「なんか、喋ってよ。これじゃあ僕が強引に連れて行ってるみたいじゃん」




馨は笑って振り返った。私は少しテンポが遅れて我に返って笑った。だって、そんな背中見せられたら喋る内容さえも考えてしまうんだよ。私は結局笑って馨の願いに答えることができないまま、また無言で歩いた。




「あれー?と・・・」



と、ふと私の前方にクラスの友人が見えた。友人はどうやら光か馨か迷っていて名前が言えない様子だった。私が助け舟を出して口を開いて馨を指差す。




「馨だよ」「光の方」





え?私は馨を見上げた。友人は案の定戸惑ってどっち?と聞いた。そしてまた2人同時に答える。名前が一致しない。





「ちょっと!」



「僕、光だよ」



「ウソつかないの!ごめんね、馨だから!」



「あ、そう・・・なの?馨君?」







友人が問いかけても自称光はそっぽを向いたままだった。すると友人は私の耳元で囁いてきた。







「何、デート?」




「違っ「そうだよ、デート。僕ら実は付き合ってるんだよね!」









馨は私をぎゅっと抱きしめて言った。私は真実じゃないのにもかかわらず恥ずかしくてどん、と馨の胸を押した。そして走ってもいないのに息を切らして違うと否定した。このままここにいても仕方ない、私は恥ずかしくて馨の腕から逃れるとパタパタと走った。馨が後ろからゆっくりとついてくる。




、ああ見えて可愛いから馨君多めに見てやってね」




「多めに見なくてもは可愛いよ」





友人は半ば興奮しながら口元に手をやった。馨はにこやかにそれを見てからじゃ、と短く挨拶をしてをゆっくりと追った。

























ー?待ってー」




後ろから呑気な声が聞こえた。私はぴたりと足を止めて振り返る。すると馨は走ってきた。そして走ってきた馨は嬉しそうだった。




「なんであんなこと言うの?」



「なんとなく」



「じゃあ、なんでウソつくの?さっきまでウソつかなくていいのにって言ったのはそっちじゃない」



「あれは・・・」






馨は頭を掻きながら図々しく横に並んで歩き始めた。途中見えた噴水がオレンジ色に見えて綺麗だった。私は景色を見て自分の気持ちを宥めようとした。





、僕はさ」



「うん?」



「まだ、自分の世界ってのを持ってるんだ。だから侵入者はなるべく少ないほうがいいんだ。例えば、やハルヒやホスト部の部員達は例外。僕らが許している範囲だから」



「何が言いたいの?」







不思議そうな顔をしていたのか、私は。馨はそんな私の顔を見てから溜息をついた。私はその溜息は流して早く先が気になった。なんだか、鼓動が早いんだ。そして胸騒ぎが気持ち悪いんだ。












「さっきみたいに、簡単に僕らの世界の住人以外に見分けて欲しくないんだ」













素直な感情をしめすと、正直それにはむっとした。何故なら、そんな彼らを変えていこうとする人間がたくさん彼らの周りに居るのに、まだそんなことを言うのか。それでも、私は感情的にならないように彼を見据えた。











「でも、そうやって自分から努力しないと世界は広がらないよ」




「もう・・・いいんだ。広がらなくて」








ゆっくりと歩いていた足取りが急に止まる。私も同じタイミングで足がすくんだ。そんなこと、もう絶対言わないと思っていた。言って欲しくなかった。自分を買いかぶりすぎで変だと思うけれど、私が居るからまだ大丈夫だと思ってた。なのに・・・一瞬で何かを崩された気がした。














「馬鹿じゃないの・・・なんで今更そういうこと言うの?みんなが悲しむよ・・・」




「悲しみなんて一時だけだよ。きっと僕らが居なくても世界は回るんだから」




「私の世界は止まる・・・絶対に」








いつだって彼らがいてこその学院生活だった。中等部の時は話もしなかったけれどそれでも無意識にも目で追っていたのだから。どれだけ彼らの存在が大きかったのだろう。この大きさに単位なんてつけられないだろう。私は震える拳をぎゅっと握った。








の世界には無数の人と愛が溢れてるじゃん。それなら僕らが世界から消えても平気でしょ?」




「そんなわけないよ・・・光がいて、馨がいて、私の世界の秩序が保たれてるの・・・」







子供みたいに駄々をこねている気がした。だけど、そんなに気にしない。正直に言いたい事を言うだけ、それだけでどんなに思いが伝わるだろうか。






・・・」




「光と馨が世界を自分から広げようとしないなら私が広げる」




「それ、おせっかいって言うんだよ?」



「なんでもいいよ。でも、私は光と馨がずっと幸せじゃないといやなの!」






ぎゅっと馨のブレザーを乱暴に掴んだ。それには馨も驚いた。私はそんな馨を気にしないで、俯いた。





「・・・そっか。・・・ありがとう」




感謝の意なんてこもって居ないような言い方で馨は私の頭に手を置いた。安心は束の間。さっきまで安心し切っていた心がもう崩れている。情緒不安定にもほどがありすぎた。





「馨・・・礼を言うところじゃない。うんって頷くところだよ」





強引に私は言った。馨は黙り込んだ。馨が黙り込むと私だって黙らなきゃいけない。








「・・・、僕は馬鹿だ」




「え?」








馨の唐突な低い声に私は顔を上げた。馨の顔が、目が、今にも泣きそうだ。






「僕は、馬鹿だからこうやって回りくどく言ったりしてを不安にさせる。だけど、違うんだ、僕が言いたい事はこれじゃない」





「何言って・・・?」






「僕は、以外に見分けて欲しくないんだ」
























一瞬、春なのに雪が降ったみたいに寒くなった。

馨の顔をなんだか直視できなくて私は地面をずっと見ていた。



















ブルビネラ


(視界が真っ白に)










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120310