青い空に、今日だけは苦しい事をまかせて






















映画館に着いたとたん光と馨の姿が消えた。チケットでも取りに行ったのだろうか、私はぽつんと藤岡君と取り残されてしまった。もう一度、藤岡君の可愛らしい格好を見つめる。きっと、2人にやられたのだろう、私もたまに見た事がある。でも本当に、可愛いな・・・と見惚れていると藤岡君の視線が私にぶつかってきた。私は思わず目を逸らす。




「なんだか、今日は天気いいよねー。こんな日は映画館じゃなくてもいいのに・・・」



「そ、そうかな?でも、光と馨が庶民デートだからとか言ってたから仕方ないよね」



「本当だよね、あの2人いつもこうだからさんも大変でしょう?」





ははは、と笑って藤岡君を見る。私は苦なんかじゃない。だけど、苦に感じていることがあるみたいに心がきゅって痛むんだ。





「藤岡君・・・って、今この呼び方変だよね・・・ハルヒって呼んでもいいかな?」




話題をすり変えて藤岡君に尋ねた。するとにっこり笑って頷いてくれた。









「「おーい!プレミアムシートとれたー!」」







2
人が遠くで手を振っているのが見えた。私とハルヒは顔を見合わせて笑ってから2人元へ歩いて行った。そう、今日は余分な事を考えちゃいけないんだ。






















映画館へ入ると光と馨がいきなりチケットをシャッフルし始めた。そして四枚を綺麗に切って私の方に突き出してきた。私とハルヒは顔を見合わせてから2人を見上げる。




「さぁ、とって!」



「くじ引きだよ!ハルヒのための庶民ルール!」



「くじ引きまでしなくても適当に座れば・・・」




ハルヒがそっぽを向いて言うと光はずいっとハルヒの前にチケットを差し出した。ハルヒは溜息をついてから一枚取った。続いて私の目の前にチケットが3枚並ぶ。私は適当に取って表に返した。光と馨もぶつぶつ言いながらチケットを引張る。




「じゃあ、せーので見せよう!」



「ハルヒ、、準備はいい?せーのっ」




馨の元気な掛け声に戸惑いながらも前にチケットを突き出す。そして一瞬見せ合った瞬間場が凍りついた。それからネジを巻いたかのようにいきなり全員で喋りだす。





「あ、僕ハルヒの隣だ」



「ああ、自分一番端っこですか。でもその隣が光だなんて・・・」



「僕と光隣じゃん!やった!」



「馨の隣で・・・端っこ・・・」





私は光と馨が抱き合うのを見ながら呟いた。馨の隣、大丈夫だよね・・・?私は窓の外に映る空に目を映してから心の中で問いかけた。






?」



「へ?」





さっきまで抱き合っていた馨がもう隣にいた。私は戸惑って顔を上げる。すると馨はにっこり笑った。







「怖かったら手、握ってもいいからね」





「?」






























映画が始まってやっと思い出した事があった。この2人・・・この前オカルト映画が見たいって言ってた気が・・・もう一度確認のためチケットを暗がりで見ようとする。だけど、真っ暗すぎて見えない。私は仕方なく諦めて最初の宣伝を緊張した様子でまじまじと見つめた。


映画が始まるとやっぱり。陰気な音楽しか聞こえてこない。洋館から出てきたのは人形でその人形は綺麗、というよりはグロテスクだ。思わずごくりと息を飲んだ。そしていきなりその人形が喋りだす。私はびっくりして思わず体が動いた。





?」





小声で隣の馨が私に尋ねる。私は首を振って馨を見た。





「な、なんでもない」







それからしばらくしてずーっと悲鳴や度重なる大きな音にびっくりしっぱなしだった。途中光とハルヒの様子を見るために顔を覗きこんだが、光は笑いながら、ハルヒは冷静としていて私だけがびくびくしているようで少し恥ずかしかった。それでも我慢して私は画面を見ようとした。怖いけれど、皆が楽しいなら・・・













ふと、馨が私の名前を呼んだ。横を見ると馨が手を差し出してきた。にっこり、優しく笑って。





「?」



「握っていいよって言ったじゃん」




「え、だっていいよ・・・大丈夫だし」







下を向いてなるべく怖がっている顔を見られないように言った。すると馨の小さな笑い声が聞こえた。私は思わず顔を上げる。すると、馨は私の手を乱暴に取ってぎゅっと握った。






「そんな顔で大丈夫だなんてよく言うよ」





え・・・バレてる?私は反対の手で頬を押さえた。それを笑って見ている馨。私の行動は馨に見透かされているんだ。そう思うと急に顔が熱くなった。





「だから、素直に握ってよーね」




「・・・う、うん」




ぎゅっと更に力を込めた馨の手に私は驚いていた。馨は何事も無いように再びスクリーンに目を移した。やっぱり、今日の2人は何かを企んでいる・・・





















映画が終わり、劇場に明りが灯った。私は馨の手からすっと手を抜いた。後の2人に見られるのもいやだったので。だって、見られてしまえばこれで馨と手を繋いでいるのが2回目ということなのだから、何か変な誤解をされてしまうかもしれない、それを思うと温かかった馨の手の温もりから逃げるしか方法はないのだ。




「馨、ありがとう」



「どういたしまして」




映画の内容は怖くて覚えていない、それが表状の理由。本当は、馨の手に神経が全部行っちゃってたんだ。

























「次何処行く?」



「ハルヒ、庶民的デートとしては何処がいい?」



「ああ、もういちいち庶民庶民って五月蝿いなー。でも、ちょっとおなかが空いたかも」



、腹減った?」



「あー、そういえば・・・うん」







光は辺りを見回した。回りにあるのはファーストフード店ばっかりだ。





「なぁー、あーゆーのは?」



「ファーストフード?ああいうのよりさもっと歩いて食べられるのにしようよ」





馨はハルヒに近寄って何かをたずねていた。私と光は忽然と立っていてそれを見つめる。と、ぼーっとしていたら光が私の名前を呼んだ。





ってさぁ、この前馨と手、繋いでたじゃん?」




一瞬ドキっとした。さっきのこと、見られていたのかと・・・私は息を吐いて肩に入った力を抜いた。そうだ、昨日のことか。私は小さく頷いた。





「でさ、何話してたの?」



「え?」





そんなこと、聞かれるなんて思って無かった。光はあの時無関心そうにしていたから。私は吃驚して口をあんぐり開けたまま光を見上げる。




「なんだよ、変な顔して」




光は口を尖らせて私の頬をつねって言った。私は痛い!とろれつが回らない口調で言った。




「だって、光がそんなこと聞くなんておかしい・・・」




「悪いかよ!」




「悪くないよ、だけど




光に手を振って見せたところ光はなんだか恥ずかしそうにそっぽを向いていた。私はもしかして・・・と思ってその光を観察する。光って、馨が絡むとなんだかいっつもこんな感じだなあ、そう思った。まじまじと見つめていると光は私の視線に気づいた。




「なんだよ」



「別にー?馨とは別に何かあったわけじゃないよ。ただ、ちょっと説教しただけ」



「ふーん」




つまんないの、そんなような言い方で光は言った。私はそれを少し不満げに見た。そっちから聞いてきたんじゃない、と。あれは、馨の考えだけど、光もああやって考えていたらどうしよう。光も数多くの人に見分けてもらいたくないって思っていたらどうしよう。でも、そんなのは私が許さないから。私は光の顔を見ないで下を見てぎゅっとバックを持つ手に力を込めた。






、馨!とりあえずあそこで庶民クレープ食べよう!」






馨は元気よく私と光を振り返って言った。私と光は顔を見合わせてから笑う。そして2人でハルヒと馨の元へ歩き出した。














エンレイソウ


(きっと小さなことでも見逃さなくて)

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120312