もうすこしできっと届く















しばらく私とハルヒは横に並んで日常的な会話を楽しんだ。光と馨は気を使って私達を傘に入れた。2人は?そう聞くと、彼らはフードを被ってそれを指差しながら笑った。私とハルヒは笑ってから「ありがとう」と呟いた。そして、私は今ハルヒの隣にいて、隣で笑っている。だけど、こんなにも胸が痛いの、なんでかなあ?私はその痛みをぐっと堪えて話に没頭しようとした。




さん、元気ないんじゃないんですか?」




「え・・・そんなこと、ないよ?」





ほら、そうやってハルヒはすぐに人の気持ちや動作を捕らえてしまうから、それが逆に苦しいの、だけどそんなこと言えるはずなくて自分が強がっているのが馬鹿馬鹿しい。さっきまで、いい流れだった私の雲行きがまた怪しくなってくる。



さんはもっと自由に生きていいと思いますよ、自分は」



「え・・・?」



「光も馨もそうだけど、さんもまだ世界って作ってると思うなあ・・・さんは気づいて無いかもしれないけど、きっと枠で囲っているんだよ。その中にぽつん、といる感じ」



「違う・・・よ・・・そんなこと、ない」



力んだ、言葉は死んでいるかのように消えそうだったけれど、心がぎゅっと圧縮されて
力んだようになった。私は俯いて、ぎゅっと拳に心と同じくらい圧縮するように握り締めた。




さん?」




彼が私の名前を呼ぶのも、私の顔を覗きこむのも全部苦しい。




「私は・・・一人なんかじゃ、ない・・・」



「あの・・・そういう意味じゃなくてさんはもっ「なんでそうやってわかっちゃうの?なんでも・・・」





ハルヒの声なんて聞きたくなかった。私は立ち止まって前を少し行ったハルヒと距離を少しだけ置いた。その声に光と馨も後ろを振り返った。私に視線が集まる。





っごめんなさ・・・い」




私はそう言って小さく囁いた。3人が私をじっと見ている。私ってどうしてこう、自分勝手なんだろうか。勝手な感情に押しつぶされて、それを吐き出してしまう。こんな風に、楽しいデートの雰囲気を壊すのも私だ。どうして、笑っていられないんだろう。考えていると涙が頬を伝いそうだった。私は深く俯いてそれを隠そうとした。












大・・・「






馨の声が小さく聞こえた。それに上乗せして光の大きな声が聞こえた。そして光は私の手をぐっと引いた。私は顔を上げて光を見た瞬間、光がぼやけて見えた。きっと、涙で霞んでいるんだ。光はそんな私を曖昧な顔で見つめた。そして手を引いたまますたすたと歩きだす。私はそのテンポについていけなくてバランスを崩しながらついていく。





「光っ」



「嫌だ、そんな見たくない!」



「離してっ・・・痛いっ・・・」



「嫌だ、矛盾してるよ。さっきまで泣かないでって僕に言ったのに、もう泣いてるじゃん」







そうだ、私はさっき光を慰めたばかりじゃないか。なのに、私がこんな風に崩れそうになっている。やっぱり、私は馬鹿だ。それに対して光は私が言った事ちゃんと守っている。言いたい事、ちゃんと言ってくれる。光は私にちゃんと話してくれている。









なのに・・・










「光、」




「?」




「              」














私がそう言うと光は更に私の手を強く引いて走り出した。ばさり、とハルヒの手にあった傘が落ちる。その音を聞いて後ろを振り返ると、2人が呆然と立ちつくしていた。これでいいの?良くない、だけど今はもうこうして光に手を引かれていないと気がすまないんだ。ごめんね、心の中で2人に謝った。ちゃんと、届いているかな?





































「馨、追わなくていいの?」




ハルヒは冷静に傘を拾いながら、馨を見上げる。馨は無言でハルヒの手から傘を奪うと自分の頭とハルヒの頭が入るように傘を差した。そしてそれを見上げるハルヒに馨は溜息をついた。




「僕、弟ってところでもう光に負けてるね」




「なにそれ?」




「いや、こっちの話。ハルヒさぁ、さっき僕に言ったじゃん?僕に見えないものが目の前にずっとあるって」




「うん・・・」








馨は光とが走っていった先を見つめて口を開いた。ハルヒはそれを不思議そうに見上げる。







「それってさ、ひょっとしてものすごく近いようで遠いんじゃないかな」






ハルヒは馨の目線を辿って同じ方向を見つめた。その先にはもう2人の影は無い。ハルヒはその馨の言葉の指す意味を理解してから小さく呟いた。








「そう、かもね」




































しばらく、走った。だけど、私の息遣いが荒くなったのを光が察知してから、光はゆっくりと歩いてくれた。無言ではいたけれど、それがすごく私には嬉しくて私もまた、俯いたままゆっくりと歩いた。街はもうすっかり雨に濡れて傘を差している人がたくさん歩いている。空もグレーに染まり、時計台は夕方のチャイムをならしていた。私達2人はとても不自然だった。傘もささないで、無言で、ただあてもなく歩いている。だけど、周りの目なんて気にしないで光は歩いている。私は何か言えるわけでも無くてただ、それについて行く。






と、ふと光が角を曲がる。同じように私も曲がる。すると、誰も居ない公園が現れた。雨に濡れて誰一人座っていないベンチ、いつもより色が濃い砂場。光はそんな公園の目の前で立ちすくんだ。私はぎゅっと手を強く握る。すると光ははっとしたような顔で私を見下ろす。私は見上げて光を見つめる。





「あそこなら、雨に濡れない・・・」





私は屋根のあるベンチを指差して言った。光は無言で私の手を引いてそこへと連れていく。それがまた強引で、光はまだ何かを悩んでいるんだと諭された。でも、もしかしたら、その原因って私かもしれない・・・





ベンチに座ると光はぱっと私の手を離した。私の手に冷たい空気が触れる。もう春なのに、真冬みたいだ。私はそんな手を両手で擦り合わせて摩擦を起してあっためようとした。すると、光の手がもう一度、私の手をぎゅっと握った。






「寒いの?」



「いままで、温かかったから・・・」



「じゃあ・・・」








光はそっぽを向いた。だけど、手は離さないでいてくれて、私はそんな光にほっとした。怒っているのかと思ったがそれは違った。それなら光はどうしてあんな風に悲しく、強引に手を引くの?






「なぁ、




「・・・何?」








光はそれだけ言って口を噤んでしまった。私が聞き返しても何の応答もしなくて、ただ空っぽの時間が無駄に過ぎていった。私はそれが少し気に入らなくて、空を見上げた。



と、しばらく空を見つめていると、光が私の肩にコツン、と頭を乗せてきた。私はそれを見下ろす。光が私を見上げる。視線がぶつかるなか、私はいろんなことを考えた。




光は寂しいのかなあ?馨やハルヒやホスト部のみんながいるんだけど、それじゃあまだ補えない寂しさがまだあって、それを吐き出せる相手がまだ見つかっていないのではないだろうか。だとしたら、そんな光の寂しさを少しでも軽くしてあげたい。それが、光にとっての大荷物ならば、一緒に持ってあげたい。







「ねぇ、光」





「何?」






「ごめんね。今日のデート台無しにして」







私は知ってた。光と馨が弾んで休み時間にパンフレットを見ていたのも、その時の2人の顔が嬉しそうなのも、全部知ってた。だからこそ、2人を笑わせてあげたいって思って今日こうやって遊びに来たのに、こんな風にぼろぼろにしてしまって・・・すごく、自分が嫌いになった。






「いいよ、別に」




「良くないよっ・・・4人でなんてちっとも行動しないで・・・」




「だからいいっての。だけの所為じゃないよ」




「私の所為だよ、あんなことで怒ったり泣いたり・・・もう自分でもよくわかんない」









こんなこと言ったところで何になるかわからない。だけど、光に本当は気づいて欲しかったのかもしれない。









ってさぁ、いろいろ考え込むの得意だよな」



「え?」



「いや、だからさ、悪く言っちゃうと考えすぎってやつなんだけど、そこがいいところだし・・・その・・・まぁ、とにかく今日の件はみんなおあいこ!わかった?」






いつも子供じみている光がすごく大人に見えた。私は光を見下ろしたまま、固まった。光はだるそうに私の頭から離れて普通の体勢に戻った。





「・・・光、ありがとう」




「こっちこそありがとな、僕嬉しかったよ。があの時、泣かないでって言ってくれた時も、その後も・・・」




「ありがとう、ありがとうありがとうありがとう」




、言いすぎ」






光は笑ってから私の頭をぐいっと自分の肩にのせた。私は目を閉じて光の温かさに感動した。涙がぽつりと頬に流れていったのがわかったけれど、今はもう光に見られてもいいんだ。光はちゃんとわかってくれるから。私はしばらくそのまま目を閉じて、ずっと考えた。









全部全部、吐き出しちゃえばいいのに、そうやって光や馨のことを見ていた私。


だけど、本当は、































自分が一番変わらないといけないんじゃないのかなって。











ライラック

(
きっと気持ちは少しずつ)
                                                                    


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