きっとそれは小さな花のように





















昨日のデートの疲れが学校へ来たとたんどっと出てきた気がした。空を見上げると、雲ひとつない快晴だ。どうせなら、昨日の天気とは逆にしてくれればいいのにそう思って溜息をつく。とりあえず今日はハルヒに・・・いや、藤岡君に謝らねば。教室に入ると今日は珍しく、おはよう、の第一声が光と馨に言わず、桜塚さんだった。私はおかしいな、と思いながら会釈する。ちゃんと、光と馨が席に座っている。何かあったのかな・・・?私は自分の席に行く、そしてカバンを置いた。隣にいるのは馨だ。そして小さく笑ってしまった。何故なら、馨は手をプルプルと震えさせながら本を読んでいたからだ。そして笑いが抑えきれなかったので馨の顔を覗きこむ。




「馨?何、読んでるの?変だなあ」



「〜っ五月蝿い!っていうか光、僕もうパス!」





藤岡君の机を挟んでいる光に向かって馨は叫ぶ。すると光もやっとだ!という感じな笑顔で馨を見た。





「僕も。いつ馨がギブするかなーって思っててさ」



「でしょ?もう、本ってつまらないねー」





2
人は同時に本を閉じるそして立ち上がって、私の目の前に立ちはだかってきた。私は一歩後ろに下がる。





「「で」」




「で?」




さ、」



「デート、怒られなかったワケ?」











私は顔に?マークを浮かべてから首を振った。すると2人は思いっきり溜めていた分の息を吐いた。






「どうしたの?2人とも」



「だって、のおかーさんさ」



「怒ってるかと思ってたから」







そんなわけないよ!と大きく手を振って否定する私を見て、2人は止まった。あの日は上手く言いくるめて家を出てきたから、元々光と馨と出かけるとは言っていなかった。きっと、言ったら言ったで多分、尾行されるか、何かはされるかもしれないけれど、こういう2人を見ると言わなくてよかったな、って思った。私は笑って2人を見る。すると2人は目を輝かせて笑い、私の頭をくしゃくしゃにした。





「なーんだ、そっかそっか」



「てっきり僕ら心配しちゃったよ」



「でも、なんで本読んでたの?」



「「あー、あれはちょっとした演出」」



「何それっ」






私が笑っていると2人はいつのまにか笑っていなかった。私もそんな雰囲気に流されて笑うのをやめる。光が私の髪をつーっと触ってそれを自分の目の前まで持っていった。馨はそれを横から顔を出して見つめる。





さぁ、」



「髪の毛、最近荒れてるね」




「へ・・・?そんなことないよ手入れして「いや、この場合なんつーの?」




「髪がストレスで痛んでる感じ」






ウソ、そう思って私も髪を一束とって見る。だけど何もわからない。枝毛もないし、何もなっていないじゃないか。だけど、2人の目はごまかせなかったみたいだ。別に、何も変わった事なんて起きていないのに。2人の顔を不安そうに見上げていると、光と馨は私を見て溜息をついた。




、またためこんでるでしょ?」



「ストレス発散しないと、例えば僕らに相談するとか、」



「ホスト部に客として来たり、あ、もちろん指名は僕らね」



「そうやって自分から発散させていかないとこのままだと・・・」



「「白髪又はハゲになるよ」」





口々言う彼らに私は俯いた。別に、心当たりは無いんだ。それに、そんなことあったとしても今までどおりの私なら2人になんて隠せたはずだ。なのに、どうして・・・?私が口を噤んでいると、2人は私の髪を梳かし始めた。いつも持ち歩いているブラシでゆっくりと。私が振り向こうとすると馨が手を私の前で止める。「動かないで」の合図だ。その通りに私は固まったかのようにしばらく動かなかった。時々、髪が引っかかったりして痛かったけれどそれは我慢した。だけど、私の髪がブラシに引っかかるなんてことは一度も無かった。本当に、ストレスを感じているのだろうか。





「まぁ、そう気にしなくても平気だけどね」



「そ、僕らがこうやって毎回チェックしてあげるよ」



「毎回・・・?」



「「そ、学校来るたび。ってかに会うたび」」







ね、なんて元気良く言われたけれど私は反発も頷きもできなかった。私は少し笑って教室のドアと藤岡君の席を交互にみた。そういえば、いつもより遅いな、藤岡君。まさか、昨日の雨で、風邪を引いたとか?それだったら、藤岡君にすごく悪い事をしてしまったな・・・私は目を細めてから下を見る。





「「あーダメダメ」」



「え?」



「今、また考え込んでたでしょ?」



「今髪がそう言ってた」



「そんなこと、ないよ。っていうか2人とも電波系・・・?」





ちゃんと、正解していたけれど、2人に当てられるのってやっぱり悔しい。私はしばらく遠くを見つめた。すると、近くに誰かが来た音がした。見てみるとそれは藤岡君だった。藤岡君はカバンを置いて私の方を見た。




「藤岡君、おはよう」



「ああ、おはようございます・・・朝から大変ですね」




私は苦笑いした。早く、言いたい事いわなければ。でも、タイミングがなかなかつかめない・・・




「あー!!」



「ダメだってば!」



「何なの?」



「「髪の毛が悩み事してるって言ってた!」」



「光、馨・・・頭大丈夫?」



さん、2人ともどうしたの?・・・なにやらおかしなことを言っているみたいだけど」





もう、今は話せないな。私は諦めて溜息をついた。そして光と馨のかけるブラシからゆっくりと髪を取った。光と馨が文句を言うのも仕方ない。だけど、私は、そんなのは気にしないで席に着いた。そして鏡を取り出して鏡を見る。すると、さすが光と馨だ。髪が朝来た時よりも綺麗になっている。私は2人を見上げて小さくお辞儀した。




「素直じゃないねー」



「ねー。っていうかハルヒおはよう」



「おはよう、さんすごく困ってたよ?2人がわけのわからないこと言うから」



「「いやだって僕らには聞こえてきちゃうんだって」」



「何が?」



の髪の毛の叫びが」



「そう、それはもうひしひしと、ネ」





藤岡君は溜息をついて席に着く。それを文句を言いながら見届ける光と馨。いつもと変わらないこの日常の中で、私は本当にストレスなんて感じているのだろうか。私は光と馨の目を盗んで髪の毛を耳に当ててみた。





やはり、何も聞こえてこない。





一体、何を訴えているのか、髪の毛は。私は机にうなだれた。











































午後の授業もあっという間に終わり、部活の時間だ。私は席を立ってホスト部へ向かう女子生徒よりも早く歩き、部室へ向かった。この微妙な速さが難しい。誰か部員と遭遇して一緒に話して部室へ向かうか(それが環先輩だとかなりややこしくなる)早く行き過ぎて一人寂しく部室で佇むかどちらを選んでも難しいのだ。腕時計に目をやると、今日は一人寂しく部室で佇むになりそうだった。と、歩いている私の後ろから走ってくる音が聞こえた。振り返るとそこには馨がいた。馨は私が振り返ったのに気がつくとこちらに手を振って更に速く走ってきた。





「馨?光は?」



、視力いいね。今くらい間違えてくれてよかったのに」



「いや、そういうわけにいかないでしょ?」



「なんで?」



「なんでって、嫌なんでしょ?間違えられるの」





馨は溜息をついてから私を見た。私は馨が言っている事がよくわからず顔に?マークを浮かべる。馨は笑って私の髪をくしゃくしゃにした。光と馨ってごまかすときや本当に楽しい時はこうやって髪を撫でる。それが今になってわかる私は鈍感なのだろうか。



それに当てはめると、今はごまかすときなんだと思う。






「嫌っていうか・・・」



「嫌なんでしょ?だって間違えられると泣きそうな顔、するじゃない。今でも」



「今も!?ウソ、マジで?」



「うん、そう見える、けど?」



「そっかー。じゃあ直さないとな」



「別に、直さなくてもいいんじゃない?」







光と馨の特徴をわざわざ消すことなんてしなくてもいいと思う。私は、2人が完璧になるよりも、少しくらい穴があった方がいいと思う。こんなの、我侭だったり、私の願望だったりするけれど、だけど、光と馨らしさが失われていくのは皆も嫌だと思う。





「だって、悪いとこでしょ?それって」



「ううん、悪くはないと思うよ」



「ふーん・・・ま、考えとく」



「うん」







しばらく無言で歩く。今日は余裕で部室に着ける。こんな風に話しながらでも、女子生徒に遭遇する事はないだろう。空を見上げると、朝と変わらず雲は一つもなく、オレンジ色の空になりかけた色が私の目に入り込んできた。






「っていうかさ、Wデートでさ」




「ああ!ごめんね、馨とは全然喋れなくって・・・」




「んー?気にして無いよ」






Wデートの時に、馨とまともな話をした覚えがなかった。しいて言えば、映画館で怖がっていた時に手を握らせてくれたときだけ。私は2人を楽しませる、そういうつもりだったのに・・・





「馨は、優しいね。ちょっとくらい怒ってくれたっていいのに。あの時だって」



「あの時?」



「馨置いて光と公園行っちゃったとき」



「ああ、あれね」






馨は溜息をついてから私を見た。私はなんだか緊張してしまいぐっと息をのむ。






「僕だって怒ってなかったわけじゃないよ、あれは」



「やっぱり?・・・ごめんね」



「いや、全然いいよ。だけど僕としてはちょっと惜しかったかなーなんて」



「え?」



「ん、だからさもうちょっととお話したかったなーって」






私は馨を見上げた。馨はそんな私を見てにやりと笑った。そして話を続ける。





「僕だってね、に話したい事あるわけ。それに、僕らはまだゲームの途中だし」



「ゲーム・・・あ!」



「どうしたの?」






ゲームで思い出した。そうだ、馨とはゲームの最中だったのだ。馨の5つの願い事、私は1つだけ分かった。私は馨の前に行って馨の両腕をがしっと掴んだ。案の定、馨は吃驚する。







?」



「馨の願い事、一つだけわかったんだ」



「何?」



「光が幸せでありますように、ってこと。違う?」







私が見上げると馨はそっぽを向いた。違ったのかな・・・。私はだんだん自信をなくして、俯いた。馨の腕を掴む手も緩めて。すると、馨の手が私の手をぎゅっと握った。はっとして顔を上げる。






















「アタリ」




















私は目を輝かせて馨を見上げた。馨はにっこり笑って私をぎゅっと抱きしめた。




「ちょっと!!?」



「だって、こんなに早く正解してくれるなんて思わなかったから」



「でも、これって基本中の基本でしょ?」



「それでも、正解って嬉しいでしょ?」








私は馨と顔を見合わせた。馨の笑顔につられて、私も笑う。馨はそっと私を放した。








「これからも、あと個ちゃんと見つけていくから」




「ん、待ってる」




「あと、今度はちゃんと出かけたらたくさん話そうね」




「っていうかさ、2人でどっか行こうか?光に内緒で」




「え?」







私が聞き返すと馨は私の前を歩いていく。私はそれを少しかけ足で追う。







「デート」





馨の振り返った瞬間の顔に少し私の心が高鳴った。なんだろう、これって・・・。前からずっと疑問だった。ときどき胸がきゅってなるこの感触。






「そ、そんなのダメでしょ?光がいいって言うわけないじゃない。光は馨大好きなんだから」




「あー、そっか。でも光ならいいって言うかもね」




「なんで?」












私が尋ねると馨はにやりと笑った。




























「さぁーあ?なんでデショ?」






私が気がついた頃にはもう音楽室の前まで来ていた。私は馨の質問に首を傾げてドアノブを引いた。そしてドアを開けると、もう全員揃っているくらいに中が騒がしかった。




「あれ?部員、増えてる?」



「んなワケないじゃん、どれどれ?」




よくみると、見かけない顔が2つほどあった。そしてその2人は中等部の制服だ。馨は私が不思議そうにしていると後ろから手を出してドアをゆっくりと開けた。全員の顔が私達に集まる。





「おお、、馨いいところに来たな」



「あれ?殿ー、鏡夜先輩・・・と・・・」






馨が言葉をとめたので私も後ろから顔を出す。すると、一度見かけた顔がこちらを?マークを浮かべて見ていた。私は思わず口に手を当てる。



「保健室でずっと前・・・」



「ん?」



馨を見上げて焦って口をパクパクとしている私に環先輩が寄ってきた。環先輩は焦っている私を覗きこむ。



「どうしたのかにゃー?」



「ホ、ホスト部だったんですか!?この2人も・・・」



「いや、どう見ても違うデショ。、そんな風に見える?あの2人が」



「ああ、この2人か、いやいやホスト部ではないぞ?この2人はハニー先輩とモリ先輩の弟さんだ」








環先輩の笑顔の後ろに片方はむっすりとした男の子、もう一方は私と同じように驚いてこちらを見ている男の子が佇んでいた。なんだか、鏡夜先輩が少しその奥で笑っているのが見えて少し嫌な予感がした。













アメリカンブルー



(いろんなことがたくさんあって頭に入りこまなくて)


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120320