優しく、ハーモニーを奏でる
とにかく、大変な一日になってしまった。結局あの後もずーっと双子は私に付きっ切りだった。同性の友達と話したくても、話せない。私がそちらへ行こうとすると光と馨もついてくる。でも、これでクラスの他の子とも交流ができるなら・・・とは思ったものの、あの2人にそんな知恵はなかった。私の後ろで髪の毛をいじりながらぶーぶー文句をたれるばかり。しまいには私は同性の友達に「今日は邪魔かな・・・?」なんて言われて遠ざけられてしまう。明日、ちゃんと謝らねば。
そして今、やっと独りの時間がやってきた。私は溜息をついて廊下を歩く。廊下には誰一人として人がいなかった。そんな静かな日常、最近は過ごしていないな、そう思った。なんだかんだ言って、双子と仲直りをしてから癒し、なんてものは消えてしまった気がする。だけど、そんな日常を待ち望んでいたんだ。楽しくて仕方が無いこの日常を。
でも、最近すごく感じることがある。光と馨は悩む必要ないって笑顔で言ってくれるから、それを守ろうとはするんだけれど、だけど、不安だ。光と馨が前みたいに仲が良く見えないのだ。それは錯覚だといいのだけれど、お互いが尖っているような気がする。気のせいだって信じたい。
だけど・・・
「さんっ!」
突如、後ろから名前を呼ばれて私の心臓は飛び上がりそうになった。私は思わず手に持っていた教科書とプリントをばらばらと落とす。すると、その声の主は笑ってしゃがみこんだ。
「すみませんっ、私・・・」
「いや、いいんスよ。驚かせた俺が悪いですから」
私も同じようにしゃがみこんで彼の顔を覗きこむ。すると、やっぱり。悟君だ。今日は良く会うな―・・・と思いながら私も焦ってプリントを拾う。すると、ふわっ、と風が吹いた。その風に乗ってプリントが一枚空の彼方へと消えて行く。
「あ・・・」
「あ!あれ、大事な物ですよね?!探して来ますっ!」
「や、いいよ。無理だよ、もう。後で先生に貰うか「先生に怒られますよ!そんなの―」
悟君が慌てて走り出しそうだったので、私は袖を引いて悟君を止めた。悟君は私を見下ろして固まった。
「大丈夫だよ、悟君は、自分がやるべきことだけをやって?」
時間が経ってからだけど、気づいてしまったのだ。あの日、部活を休んでまでプリント整理を手伝ってくれた事。私はすごく申し訳ない気持ちになった。それに、あのハニー先輩の弟さんの表情がなんともいえなくて。
「もしかして、あの日部活サボったこと・・・」
「うん、ごめんね。私があんなことさせちゃって・・・靖睦君も怒ってると思うんだよね」
「あ―・・・いや、大丈夫ッスよ!?俺がやりたくてやったわけで・・・」
曖昧な雰囲気になってしまった。と、ふと私は巾着を貰ったことを思い出しポケットに手をやる。
あれ―・・・?
巾着 が な い ?
私は何回もごそごそと中を漁る。すると悟君はそれを悟って頭を掻きながら言った。
「あ、先ほどあげたやつ、気に入らなかったら捨てちゃってもいいので」
「いや、そんな、ありがとね。嬉しいよ」
「似合うかなーって思ったんですよ。髪の毛とかすごく前から綺麗だなって思ってたんです」
私は急に熱くなるのを感じた。そして俯く。すると悟君は笑って歩き出した。
「じゃ、俺これで失礼します。さん、本当心配しないでくださいね!部活はこれからはちゃんと
出ますから!」
振り向き様に私に大きく手を振って彼は言った。私も手を振り返した。
悟君の背中は光や馨とは少し違う。悟君はやっぱり、モリ先輩の血を受け継いでいるようなそんな背中。温かくて大きな背中。
と、じっと悟君が見えなくなるまで見送って我に返り周りを見渡す。プリントは何処に飛んでいったのだろうか。多分、この敷地の中にあるだろう。庭の方に飛んでいったのが見えたので、そちらへ行ってみよう。私は立ち上がって教科書を抱えて真っ先に緑の道へ進んだ。
しばらく花の園を駆けるとひらひらとプリントが見えた気がした。私は角を急いで曲がって次の風が来ないように早くと気持ちをはやらせた。と、角を曲がると光と馨が悪そうな表情で立っていた。
「なんでここにっ!?」
「「ちゃーん、これなーんだっ」」
光の手に見えたのは悟君に貰った巾着だった。やっぱり・・・そうは思ったけれど、そこまでする意味がわからなかったので、それはないだろうと思っていた。なのに・・・
「それ・・・返して!」
「んー、僕らそんなに素直じゃないからさ、」
「そ。なんか嫌な予感がするんだよねー」
「何言っ「「いやーなんつーの?」」
光は馨を見ながら巾着を振り回す。
「モリ先輩の弟だからって多めにみてやるとかそーゆー心が広い人間じゃないんだよね」
「そ。それに、最近いじめてなかったしね」
そういう問題なの?私はぎゅっと拳を握って勢いをつけて2人の前に手を差し出した。
「返してよ!私が貰ったの」
「「なんでそんなにムキになるの?わけわかんなーい」」
私はふつふつと何かが沸きあがるのを感じた。そして光と馨の手にある巾着に手を伸ばす。すると光は大きくそれを掲げて届かないようにする。
「光、馨・・・いい加減にして」
「あ、そうだ、あの悟君だっけ?ちょっと退屈しのぎにさ」
「竹刀隠しちゃったんだけど、今頃困ってるかもね」
・・・。私は我を忘れたかのように2人の頬を順番に打った。2人は一瞬手で頬を押さえて私を見下ろす。信じられなかった。すごく最近優しくて、頼りになっていた彼らなのに―・・・少し不安なところだってあったけれど、2人の為にそんなの表に出さないって決めていたのに・・・もうそんな風に我慢していた私が馬鹿みたいだ。
「ふざけないでっ・・・光と馨の遊びに私の友達を巻き込まないで!信じられない、最低」
目にじわじわと涙が伝っている。私はそれを袖で拭うと思いっきり走り去った。すると後ろから大声で2人の怒った声が聞こえた。
「「僕らはなんなの?のなんなの?」」
私は振り返らないでただ一目散に走った。悟君に謝らなきゃ、一緒に竹刀探さなきゃ・・・
「ねぇ、光、これってさすごく子供っぽいことだよね」
馨はにぶたれた頬を押さえて笑う。光はその場に座り込んでそっぽを向く。
「でも、の中における僕らはなんなのかわからなかったし・・・つい・・・」
「ハルヒの二の舞にならないようにしたかったのにな、僕は」
「馨はムカつかないのかよ。あーゆー、放って置かれるっていうか、取り残されること」
「んー?どうだろうね、でも少なくとも光よりは冷静だと思うよ?」
馨は笑ってが走っていった先を見つめた。光は相変わらず、腑に落ちないような顔つきで自分の頬に触れた。
バラ
(嫉妬した心は時に行過ぎる)
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120325