僕らは子供だった。大人になれていたと思っていたのに、子供だった。



















光と馨にショックを受けてから私は急いで悟君の竹刀を探した。何処にあるなんて分からないから、宛ても無いままただ探し続けた。でも、探しているときにも光と馨の意地悪な顔が浮かんでは私の心を掻き乱していた。今は、悟君のことだけを考えなくては・・・顔を振ってもう一度来た道を戻る。



最近、おかしいと思っていたの、当たっていた。今は、昔と比べて2人を見る目だって変えていた。前までは幼馴染っていう対象でしか見ていなかった。だけど、今は、友達、男の子、光、馨、そんな風に見ているのだ。だけど、それが全否定されたかのような先程の態度。私は馬鹿だから腹を立てることしかできなかった。




「だから、違うんだって・・・悟君の竹刀・・・」




私は庭に入ってあるはずも無いような場所ばかりを探した。2人なら何処に隠すか、2人なら・・・この竹刀のある場所を捜し求めることができなかったら―どうだろうか、私はきっと何も知らない人間になってしまうのでは・・・




?」




ふと、誰かに名前を呼ばれた。私は顔を上げて振り返る。すると、それはモリ先輩だった。私は一瞬後ずさりをする。すると何かつるみたいなものに足を絡めて後ろへ倒れこんだ。




「わ!」



!」




痛みはあるものの、大丈夫だ。と、思っていると目の前にモリ先輩がいた。私は吃驚して俯く。モリ先輩は、悟君の竹刀を光と馨に隠されたって知ったらどんな顔をするんだろう・・・




「何をしていた」



「えっと・・・探し物を・・・」



「こんなところに・・・か?」




私は黙り込んだ。正直迷っているのだ。本当のコトをちゃんと言うか、言わないかで。するとモリ先輩はふっと笑って私の手を取って体を起してくれた。私はお辞儀をすると再び草むらに手を突っ込んだ。




・・・!」



「あ、いえ、本当なんでもないですから」




「そうじゃない、やめろ。手、見せてみろ」




私はモリ先輩にしぶしぶ手を見せた。今まで、必死すぎて気づかなかった。手は泥まみれで、ツメには土が入っている。そして、手の甲に無数の傷。枝で切ったのだろうか。モリ先輩はそれを見るなり私の手を引いて歩き出した。




「先輩!?」



「保健室に行くぞ」



「・・・いいです。私に時間が無いんです」



「俺も、時間がない」






モリ先輩の言葉の意味がよくわからなかった。だけど、私は心がきゅっと痛くなったのが分かった。まるで、モリ先輩は私の事情を知っているみたいだ。そして、モリ先輩もまた私の手を引いた。でも、不思議な事にモリ先輩は環先輩や光とは違った。寂しさなんてこれっぽっちも感じない。感じるのは温かさと広さ。モリ先輩って何を考えているかわからなかったけれど、本当は愛で満ちている素敵な人なのだと初めて悟った。





保健室に辿り着くと、モリ先輩は先生に事情を話していた。私は大人しく椅子に座る。するとモリ先輩が無言で出て行ってしまったので、お礼を言うことができなかった。私は俯いて手を見る。



本当だ、ちょっと痛くなってきた。







「何を探していたの?こんな泥だらけで傷をたくさん作っちゃって」



「それは―・・・」



























僕らは子供だ、ずっとずっと誰よりも子供だ。放課後の誰も居ない教室。僕ら2人は佇んでいる。今は部活に行く気になれないのだ。光は隣でゲームをしている。そして僕は窓をじっと見つめている。こんなこと、中学生以来だ。




「ねぇ、光」




僕は耐えられなくなって質問した。光から帰って来たのはやる気のない返事。




「僕さ、本当のことに教えてあげたほうがいいと思う」




「今更?、本気で竹刀探してると思う?」



「うん、ってそういう子じゃん」




光の持っているゲームからゲームオーバーの音楽が流れた。光は溜息をついて顔を上げる。





「でも、今、聞く耳持たないと思うけど?」



「そうだね・・・どうしよう」




本当に、取り返しの付かないことをしてしまった。本当は、ただの嫉妬だったのに。光は平然としている。でも、その平然としているのはただの仮面だってことくらい分かっている。光は最近、隠すの上手になったよね、大人になったよね。僕はしみじみと思った。と、ふと光の机の上に置いてあるモリ先輩の弟がにあげたと思われる巾着に目がいった。僕はそれを手に取ると巾着を開けた。すると、そこには櫛が入っていた。




「弟君、可愛いの選ぶじゃん」




光が横から顔を出して言う。僕はじっとその櫛を見つめた。その櫛はにぴったりだった。綺麗な和風の艶やかな黒に点々と蝶々が舞っている。それを、が使っているところを想像するだけで愛おしかった。きっと、僕らが計り知れないくらい愛おしい顔をするんだろうな。そして、綺麗な髪がなびくんだろうな。



「馨?」




また、嫉妬してしまった。でも僕はもう隠さない。光が隠すのを覚えたのなら僕は面に出すことを覚えよう。




「弟君に、僕ら先越されたかな。僕ら、こんな綺麗なものあげたことないや」




僕は力無く笑った。光はそのくしを僕の手から取ると、それを窓辺に行って夕日にすかした。綺麗なくしのシルエットから小さく太陽の光が漏れる。僕はそれをに似ていると思ってしまった。小さくて、だけど、強いそんな輝く存在だと―
































「ハルヒ!3人はどうした?」




一方、部室では騒ぎ立てる輩が一名いた。ハルヒは今その人に迫られている状況だ。



「光と馨なら、今日は部活に行く気がしなーい、と言ってましたけど・・・さんは・・・」




環は溜息をついて鏡夜を見る。鏡夜はその視線に気づいてパソコンを閉じてハルヒの方へ近づいた。



「双子の埋め合わせならハルヒ、お前がやれ」



「ええ!?なんで自分なんですか!?」



「お前が一番妥当だろう、―だが、がいないのは困るな・・・菓子の到着時間がわからないからな」




鏡夜は一瞬考え込んでから溜息をつきながら部室の出入り口まで歩きだした。環は振り返って鏡夜を呼ぶ。





「何処へ行く?」




を捕獲してくる。プライベートポリスにも協力してもらおうか」





鏡夜は携帯を取り出した。すると、ソファーに座っていた崇が立ち上がり、鏡夜の携帯を阻止した。鏡夜は顔を上げる。





「おや?どうされました?」



は、帰ってくるから探す必要は無い」



鏡夜は崇の顔をまじまじと見つめてから携帯を閉じた。後ろで光邦がはしゃぐのが聞こえる。




「たかしかっこいいー!」




「やれやれ、じゃあ、俺だけで探しに行ってくる。これはれっきとした無断欠席だからな」




鏡夜はそう言ってドアを静かに閉め出て行った。ハルヒはそれを心配そうに見つめる。それに気づいた環はハルヒの顔を覗きこむ。





「どうしたのかにゃー?」



「あー、いや、光と馨はそういえば今日さんにつきっきりだったなぁと思って・・・」



「?」



「なんだか、作戦っぽかったけど、さん、大丈夫かなあ?」












































保健室を出ると、窓の外から声が聞こえてきた。私は顔を出して見てみると剣道部だ。そして、すぐにわかったモリ先輩の弟―悟君。





あれ―?






竹刀持ってる・・・?でも、それがもしかしたら代わりの竹刀かもしれない。どうしよう、今声かけても大丈夫かなあ?私はパタパタと廊下を走って庭にいる悟君めがけて走った。







「―、先輩?」





ふと誰かに呼びとめられた。私は階段を駆けおりていたので振り返って停止するまで時間がかかった。私は慌てて誰かを確かめる。するとそれは、





「ハニー先・・・じゃなくて、靖睦君」




一瞬靖睦君はぴくっと反応したが、真顔を保った。私は上にいる靖睦君を見上げて言った。




「ごめんね。私の所為で悟君が・・・」



「いや、こっちこそすみません。あの時、冷たく当たってしまって・・・」





あの時・・・それは、準備室で会った時に私が「ハニー先輩の弟さん」と言ってしまった時だ。私はどうして嫌がるかはわからなかった。だけど、嫌がると同時に切なそうな顔をしていたから。


沈黙が流れる。私は何を話したらいいかわからなくなって俯く。





先輩・・・」




と、靖睦君は自ら口を開いて私に呼びかけた。私ははっと顔を上げて反応する。





「悟は、馬鹿でドジでアホだけど、いい奴なんです。だから―・・・」





この光景に似たこと、体験したことがある・・・そうだ、あれは・・・藤岡君の近くの中学校の文化祭に行った時だ、光と喧嘩して、屋上で仲直りいて光に言われた言葉。、馬鹿でドジでアホだけど好き!」私は咄嗟に笑ってしまった。靖睦君は怪訝そうな顔をした。だけど私はひるんだりしないで、靖睦君に笑いかけた。



「そっか、靖睦君は悟君のコト大好きなんだね」




「―っ・・・!そういう意味じゃなくて!」




「?」




「もういいです。部活に戻ります」






靖睦君は呆れたような顔をして、(少し照れ隠しに見えたけれど)階段を降りた。私と同じところまでやってくる。そして小さくポツリと呟いた。





「             」





それが小さすぎてあまりよく聞き取れなかった。私は靖睦君を見ようとした。だけど、もうそこには靖睦君はいなかった。




「・・・あれ?」





気がついた。靖睦君も部活が始まっているのに、よかったのだろうか。私はなんだか温かい思いで靖睦君が下に伸びている階段にいると信じて大声で叫んだ。





「がんばれ!」





そうだ、私もがんばらなくては。












ニシキギ


(嬉しくて、もやもやして、私の心は万華鏡みたいにたくさんの感情を映し出す)




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120325