まだ記憶しきれていない、僕のこの気持ち
















「・・・何してんの?」



「「馨!?」」




馨は呆然として私と光を見た。私は慌てて光の背中から離れる。光はきまり悪そうな顔をして馨の顔色を伺う。私はとりあえず弁解しなくては、そう思い身振り手ぶりしながら馨の前に立つ。




「いや、あのね光が私の机の中漁ろうとしたからね・・・」



「だって、気になるじゃん?馨もそう思わない?」



光!私は光の方を見て小さく怒鳴った。すると馨は普通に笑って私達をじっと見つめてからいつもの双子ならではの悪戯笑みに変えた。



「思う」



私は後ずさりして並んだ2人の笑みを交互に見た。すると、2人は私を抜いて机に向かった。私はまた2人に覆いかぶさるように抵抗する。




こんな日常、悪くないかも























「ハニー先輩、モリ先輩、こんなところにいらっしゃったのですか」



コツコツと廊下を歩く音を早めて環とハルヒは呆然と大きな額の前で立つ2人へ声をかけた。ハルヒはキョロキョロと初めてのものに囲まれて、落ち着かない様子だが、環はいつも通り、平然としてにこやかに笑っていた。光邦もそれに気づいて大きく手を振って2人を迎える。



「たまちゃんとハルちゃんは今までどこに行ってたのー?」


「えっと、環先輩が中庭とさんの写真が見たいとずっと言っていて中庭に行ったんです」


「写真はー?あった?」


「それが・・・」



ハルヒは環を見上げる。すると環はそれに気づいてか溜息をついて辺りを見回しながら言った。光邦はそれを見て首を傾げる。


「どうしたの?」


「家に、一つもの写真が無いんです」


「え・・・?」


「普通、我が子の写真なら何処かしらに飾ってあると思うんです。モデルなら尚更・・・」


ハルヒは開放されている吹き抜けの天井を見つめた。環も少し困ったような顔をして俯く。










「あのねぇ、僕の予想なんだけど、きっとちゃんってお母さんに嫌われてるんじゃないかな?」


光邦の唐突な言葉に2人は我に返って光邦を見つめた。すると光邦はうさぎのぬいぐるみを持つ手に力を込めて遠く先を見つめて言う。


ちゃんの口からちゃんの家族のお話なんて聞いた事、僕あんまり無いんだ。逆に、ちゃんは家族から逃げたくて学校に来てる、そんな気がするんだ」


光邦は崇を見上げて「ね」と言う。すると崇も頷いて重々しく口を開いた。


は母親と父親との関係を断っている」







「そんな・・・」




ハルヒは後ろへ一歩下がって目を大きく見開いて言った。ハルヒにはがそんな風に苦しんでいるようには見えていなかったのだろう。それはもしかしたら、光と馨がの周りで明りを保っていたからそう見えてしまったのかもしれない。環はハルヒのそんな様子を見て、思わずハルヒの肩にぽん、と手を置いた。




「これは、は本当の親子親睦会をやらねばな」




ハルヒは不思議そうに環を見上げた。環はにっこり笑って前を見据えた。





















































「では、今は着物の仕事はさんには任せていない、そういうことですか?」



「ええ、今は姉に任せています」



「一つお尋ねしたいのですが、家の当主は現時点でさんのお父様ですよね?」



「ええ、そうよ。あの人もしきたりに縛られているの。あの人自身のことをどう思っているかなんてわからないわ」



「お母様としてはどう思われているんですか?」



「私は・・・」
















「私は、あの子を大事にしてやれないの・・・幸せにしてあげられないの」












窓の隙間から差し込む光に帰宅して来た私は興味本位に覗きこんだ。すると、見知らぬ男性と母が会話している。きっと内容からしてのことだろう。姉である私が救ってあげなきゃいけない。だけど、母親だって不器用だけど努力している。それなのに、それが報われないというのが私としても見ていられない。目を瞑ってしまいたい現実に私はまた逃げて、妹を助ける事ができない。あの男性は、それを分かっているような顔をして母を包んでいる。そういえば、の友達が来ると言っていたけれど彼だろうか・・・でも、一瞬で分かった。あそこで母を包んでいる彼ならを任せる事ができると。


もしも、他にも彼と同じように優しく包んでくれ、の隣に居てくれる人が此処に来ているのなら、私は数え切れないほどのお礼を言いたい。全員に、一つずつ気持ちを込めて・・・






「「あっれー?もしかして・・・」」



「お姉ちゃん、お帰り」





前方に3つの影が見えた。その影がどんどん明白になっていくと、そこには懐かしい光景だった。3人が一緒に並んでいる。私は楽しそうなの顔と2人の顔をまじまじと見つめた。




「やっぱり、姉さんじゃん」



「しばらく会ってなかったね」



「仕事、もう終わったの?早いね。あ、今光と馨の他に5人来てるから」




3
人の顔に曇りなんて言葉が似合わないくらい汗を少し掻いて息を切らしている。この3人は昔みたいに遊んでいたのだろうか。それを想像すると可笑しくて私は思わず笑った。3人は同じように首を傾げた。




「「姉さん、変わってないね。ほんとにそれで成人したの?」」 



「五月蝿いよ、光に、馨」



「「ハズレ」」




適当に光と馨を指差して言ったつもりだったがやっぱりはずれてしまった。光と馨はに後ろから腕を回して笑う。だけど、はちゃんと光って呼ぶときは本当の光の方を見て、馨って呼ぶときは馨の方を見て話す。すごく羨ましい光景だ。そして当てられた本人も嬉しそうに反応する。




「でも、光と馨も背、伸びたねー」



「「デショ?結構努力してるんだから」」



「え、努力してたの?」



「「に言われたくないよ。全然中3の時から変わってないしー」」




2
人がぎゃあぎゃあと騒ぐといつも五月蝿くないまでが五月蝿くなってしまう。良い事ではないけれど、いい光景だ。私は微笑ましくって、彼らをまじまじと見つめていた。




「あ、お姉ちゃん、私ちょっと用事あるから光と馨とお話してて」


「え?!あ、うん・・・」



なんだか、がいなくなると急に静かになるこの2人。私はそんな2人を横目で盗み見ると、ダメだ、気づかれた。




「姉さん、心配いらないって」



なら僕らが幸せにするから」



「何それ、プロポーズ?」



私が即問うと2人は顔を見合わせて笑った。こうやって冗談で笑っていられるならまだ大丈夫だけど。光と馨だって、これから先、好きになったり愛し合ったりする時期が来る。それをどう迎えるかは誰一人としてわからない。この2人がもし・・・



考えるだけで、先が思いやられる・・・




「光、馨」




私は少し妹を捕られた気がして、




「私は甘くないよ?」




不敵な言葉を放って笑う。






でも、彼らなら幸せにできると思う。




無邪気に笑うや、




無邪気に泣いてしまうを、




どうしても崩せなかった家族の領域を超えて





そう思うと、渡すしかないって素直に思える。だけど、適正チェックは絶対に怠らないつもりだ。これ以上、私だって妹が苦しむ姿は見たくないから。




「あ、僕のところに行ってくる。渡したいものがあったんだ」



「あ!馨、朝パソコンやってたのってそれなのか?」



「うん、だってはワイン飲めないでしょ?」




馨は光に笑って走って行った。私と光なんてまた変な組み合わせでその場にぽつんと残される。




「光はいいの?行かなくて」



「だって、僕は選んでもいないし。そんなこと考えつきもしなかった」



悔しそうに言う光はまだ子供っぽくて私は思わず頭を撫でた。すると光は膨れっ面で私を見る。ちょうど、同じくらいの目線。



「何?」


「あんたもが好きなの?」


「姉さんまで変な事聞くの!?今日馨にも変な事聞かれた・・・」



やっぱり。






「で、好きなの?」



「・・・わかんない。好きは好きだけ、ど・・・」






やっぱり、まだ子供だ。こんな奴にはを渡せない。私は笑ってもう一度、今度は強く光の頭を撫でた。





「ちょっと!今のに言わないでよ?」



「言わないって。私と光の秘密だよ?」






光がまだ子供なら大人になるのを待てばいい。


大人になったら、、渡してあげてもいいって思えるかもしれないから。






























!お待たせ・・・っ!」



「馨」




中庭のベンチで佇んでいると、馨が何かを持って走ってきた。馨は先ほど私と光が私の部屋に居る間にメールをくれたらしく、それには、「抜けれるタイミングがあったら抜けて中庭のベンチに来て」と書いてあった。そして何回もタイミングを計るのち、やっと姉に会って抜けられる時間が出来た。これで、光と姉が話していれば、馨も時間差で来てくれる。そして今、やっと馨と2人で会うことができたのだ。馨が2人を好む理由はわからなかったけれど、きっと皆がいるところじゃ嫌なんだな、と解釈した。



「どうしたの?何か深刻な悩み?」



「違うよ。あのさ、これ・・・」



後ろに持っていた物を私の目の前に差し出す。いい香り・・・ジャスミンだ。ジャスミンが綺麗にラッピングされている。私は口元に手をやって後ろへ一歩下がる。



「何、どうしたの?」


のお母さんにはワインを持ってきたんだけど、ほら。はワイン飲めないじゃん?」



だから・・・そう言ってもう一度花を突き出す。私はおそるおそる受け取って馨の顔色を伺った。

なんか、分かった気がした。

馨の5つの願い事の2つ目。それって、もしかして、私の幸せ?自惚れているみたいで変だけど、馨は私のことをすごく気遣ってくれる。それに、些細な事も見逃さなくて・・・そう考えるとすごく感動してしまって涙が出そうだった。私はバレないように目を擦るふりをして涙を拭う。



だけど、些細な事も見逃さない彼だから・・・



「何泣いてるの?」



今はまだ、わかってしまったけれど、言わないことにした。だって今、言ってしまったら、私の涙が止まらなくなってしまうから。




「泣いてなんかないよ。ありがとう。部屋に飾るよ」



「うん、そうして」




馨の優しい笑顔が目を閉じても蘇ってくる。私は小さく頷いて空を仰いだ。目に冷たい空気が伝わる。



ーっ、馨!テラスでお茶だそうだ!」



と、大きな声が聞こえた。振り返ると、環先輩が笑顔でこちらを見ていた。私と馨は顔を見合わせて笑った。私が先を行こうとすると馨は私の手を引いて耳元で言った。


、ジャスミンの花言葉は、



















あなたは私のものって言うんだって」





















私ははっとして馨を見る。馨はにこやかに笑って私の肩を叩いて前を走った。そしてこちらを振り返る。




「ほら、行くよ。殿達が待ってる」




































どうしよう・・・







ストレリッチア


(心に閉まっておこう。今の私は小説の結末を読んでしまったみたいにぽっかりと穴が開いているから)

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120611