たとえ、それが苦しくてもきっとそれは準備期間だから。
そう祈っていれば大丈夫。























「父さん・・・姫に何を言ったんですか・・・」



「彼女は部員なのか?」



「質問に答える気がないなら俺は言いません」



「・・・彼女にこだわる理由がどこにある?立場上、あの子は本来この部活において喜ばせるお客様ではないのか?」



姫は・・・違う」



「姫・・・か。何故そうまでして彼女を枠の中に捕らえるのだ」







環はぎゅっと拳を握り締めた。そして顔を上げて実の父を鋭い目つきで睨んだ。父は椅子を回転させて窓をじっと見つめた。






「捕らえているつもりはないです。彼女は、部活に必要な存在なのです」


「ほう、例えば?」


「彼女がいないと今のホスト部は成り立たないんです」


「仕事もしていないような人間がそこまでしている必要があるのか?」


「仕事はしてます。みんなを安心させるような、そんな仕事を」







環が無理に笑顔で笑いかける。父は口元を歪めて小さく呟いた。






















「まぁ、調べるにこしたことはない、が」






















しばらくゆっくり歩き続けた。私は涙を拭いながらいろんなことを考えた。帰ってきて早々、こんな気持ちになるなんて・・・、環先輩にどんな顔をして会えばいいのだろうか。本当に私って馬鹿だなあ・・・とにかくいろんなことを考えた。





「あっれー?もしかして」





後ろから可愛らしい声が聞こえてきた。振り返ると、ハニー先輩だった。やっと会えた。ということは・・・。顔を上げるとそこにはモリ先輩が立っていた。





「モリ先輩、ハニー先輩・・・」



「おかえりっ!」



「元気にしていたか」



「はい、お陰様で」



「でも、目、真っ赤だよー?どうしたの?」






「ゴミがちょっと・・・」ベタな嘘をついて私は目を擦った。そんなの信じる人いないよね・・・そう考えると余計に悲しくなった。どうしよう、こんなところで泣いたら、先輩達を困らせてしまう・・・






・・・」




ふと、頭の上に温かい感触をおぼえた。顔を上げるとそこにはモリ先輩が私の頭に手を置いて笑っていた。どうしよう、そんなことされたら・・・。再び俯く。













「悲しい事あったの?僕らに言える?」



「・・・っ・・・先輩、私ってホスト部でいていいんですか?」



「「?」」



「仕事もしなくて、ただ一緒に時間を過ごしているだけなんですよ?それなのに、部員とかいって皆に言われるけれど、本当にそれでいいんでしょうか?私・・・自信ないんです。部活、辞めたほうがいいんじゃないですか?」





私は顔を覆いながら2人に言った。ハニー先輩の顔が覆った指の隙間から見えた。
少し考えているような、曖昧な表情だった。モリ先輩もまた、少し戸惑ったようだった。
私は嗚咽を抑えてその場に座り込んだ。





「ううん、それは間違ってるよ」




ハニー先輩の少し低い声が私に問いかけた。私は顔を上げてハニー先輩を見つめた。
ハニー先輩はまっすぐに私を見てくれた。




「なんでかわかる?」




「・・・わかりません」




「それはね、僕らがそばにいて欲しいって思うからだよ」




「え・・・」





先程のハニー先輩とは違った表情で私を見た。ハニー先輩は私にうさぎのぬいぐるみを抱かせた。やわらかくて気持ちいい。





「僕らはちゃんが部活を辞めるなんて事は望んでないの。傍にいてくれることを望んでるの。だから、辞めたりしたらそれはそれで、みんなは困るの。だから、簡単に言っちゃうと」





ハニー先輩はしゃがんで私と同じ目線に合わせた。そしてぎゅっと抱きしめてきた。私はびっくりしてうさぎのぬいぐるみを持つ手に力を込めた。























「たまちゃんも、きょーちゃんも、ひかちゃんも、かおちゃんも、はるちゃんも、崇も、うさちゃんも、僕も、みーんなちゃんのこと大好きなんだよ」


















「ね」小さく笑うハニー先輩に私は安心するほかなかった。私はそっと後ろに手を回してハニー先輩を優しく抱きしめた。モリ先輩の笑顔も後ろで見えた。私は何度も小さく感謝の気持ちを呟いた。












「さぁ、帰ろう。部室でたくさんケーキ食べよう?」



「みんなが待っている」



「はい」



















このとき私はハニー先輩に魔法って何ですか?と聞けなかった。











































「「殿!遅いよ!あれ?は?」」





「もうじき戻ってくるだろう!それよりいいことを思いついたんだ!」




「「何ー?」」




「今から即急に姫歓迎会の準備をする!」




「「「え!?」」」




その場にいた双子・ハルヒはいきなりの発言に驚いていたが、
鏡夜はファイルをめくりながら口元を歪めた。












ヒナゲシ





(今はもう自信をもたなきゃ)

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120229