信じるしか、術はない。
















ふと、隣を歩いているモリ先輩を見上げた。パリに行く前、私は先輩をまともにしゃべった事があまりなくて(文化祭で抱えられて走ったことしか・・・)何かしゃべらなきゃ、そう思った。だけど、どうにも話すきっかけが作れなくて何度ももじもじしているうちに時間が過ぎていってしまう。今日も、そんな気がする。みんなのいる部室へ行けばより一層モリ先輩に近づきにくくなってしまう。そうこうしているとハニー先輩がしゃべりだした。モリ先輩の視線がハニー先輩へと変わる。




ああ、こういう関係っていいなあ。私はハニー先輩とモリ先輩の関係にひそかな憧れを抱いた。何も言わなくても通じているような、そんな関係。私は2人をじっと見ながら思った。そんな風に通じ合える人が私にも現れるのかなあ。と。























僕ら双子はいつも2人だった。だけど、そんな意識が薄れて言ったのはと出会ってから。は笑いかけてくれた。どんな時でも幸せそうに。それがただ嬉しくて、悪戯だってした。だけどもう、そんなことできなくなってしまうかもしれない。5つの願い事をが全部当て終えてしまえばそれが魔法を解く呪文となって魔法が解けてしまう。光はまだこのこと気づいていないみたいだけど、僕はとっくに知っちゃったよ。教えてあげたいけれど、教えてあげられないんだ。だって、光は馬鹿だから。それに、今の光をずっと見ていたいから。僕らの魔法は硬くて頑丈だからそんな簡単には解けないけど、なら簡単に解いてしまいそうなんだ。もしかしたら、僕はそれを怖がっているのかもしれない。





「馨?どうかした?」





ほら、光が心配してくれる。今がこれなら、魔法の効き目はまだきれないと安心できるけど。



そうして僕は笑顔を作って笑い返す。





「ううん、さ、準備しよう。をびっくりさせたいからね!」



























・・・」



不意に聞こえた低い貴方の声。私は顔を上げてこれは夢かと疑った。普段全くしゃべらない彼が私に話しかけてくれたから。私は嬉しくて思いっきり返事をして笑った。すると、彼は私を安心したかのように見て微笑んだ。



「写真、見せてもらった」




「え?写真・・・?」




「あのねぇ、ひかちゃんとかおちゃんのお家に届いた写真のことだよー」




「ああ、あれ・・・あれですか!?」




急に恥ずかしくなった。あの写真はあの時、カメラマンさんに一番気にいってもらえた写真だった。ちゃんの表情ってすごく神秘的だよね。女神様みたい」そんな風に言われて嬉しくて2人にも自慢したくて送ったのだ。今改めて思い出すと恥ずかしいことだった。私は顔を俯かせて2人の目線を避けた。すると、モリ先輩はポンと私の頭を撫でた。



「綺麗だった」




「うん、本当に天使ちゃんみたいだった」




私はゆっくりと顔を上げた。2人の微笑が私の目にぶつかった。嬉しくてそれを受け入れられずにはいられなかった。
























「環、先程血相を変えて部屋に入ってきたのを見たが、あれは?」



鏡夜のファイルがペラペラと音を立ててめくれる。環は一瞬ピタリとリボンを結ぶ手が止まった。そして鏡夜を振り返る。



「俺の父さんがを苛めたんだ」



「ほう、どんな風に?」



「よくわからない。でも、は泣いていた」

そういって環は窓の外に目を泳がせた。それを見て鏡夜は溜息をつく。

「・・・まあ、本来ホスト部にいるべき人間ではないからな」



「っ・・・」



「だってそうだろう?彼女は本来俺たちが喜ばせる側の人間だ。けれど、実際はそうじゃない。ホスト部として機能しているわけではないが俺たちとともに行動している。」


「でも彼女は光や馨を安心させることができる。姫が来てからあいつらやわらかくなったし・・・ハルヒだって楽しそうだ」

「本当にそう、言えるのか?彼らは実際、安心しているのか?


環は鋭い目つきで鏡夜を睨んだ。鏡夜は平然としてファイルをめくる手をとめなかった。




「鏡夜・・・」



がいて、あいつらは安心しているかいないかなんて結局俺たちに理解できることではない。心を揺るがされている人間が部員の中にいるかもしれないだろう。どれもこれも俺たちは憶測でしか語ることができないんだ」



「そんなこと・・・」



「今のところお前には見えないだろう。だったらそれでいいんじゃないか?」



「じゃあ、鏡夜は心当たりがあるのか?」




鏡夜は一瞬手を止めたが再び作業に戻った。環は少し顔を曇らせて鏡夜を見つめた。鏡夜は一瞬窓を見て空に目を映した。





「さあな」




「・・・とにかく、姫には仕事を与えたほうがいいのかもしれないな・・・うむ・・・」




「(こいつ、何もわかってないな。自分こそ家族設定にを入れないじゃないか)」



「じゃあ、考えておく。鏡夜も何かいい案があったら言ってくれ!」



「ああ」




そうこうしているうちに、理事長の言う通りになってしまう、そんな気がするのだけれど。鏡夜はそう思いながら溜息をついてパソコンに電源を付けた。
























「そ、それでってば、蛇のぬいぐるみ動かしてみせたら怖がってさー」



「へぇ、2人の悪戯癖はいつになくおさまりなかったんだ」



「五月蝿いな、が悪いんだって。僕らをあんな風に笑うから」




光は折り紙で作った輪の鎖をはしごに登って取り付けながら笑った。ハルヒはその鎖の端を持って光に笑いかけた。




「あんな風に笑うって?」



「だから、なんつーの?はじけてるっていうか、めっちゃ嬉しそうな笑い方っていうか。ああやって蛇のぬいぐるみで驚かしても辿り着くのは笑ったなんだよね」



光はくぎりくぎりに言って鎖を取り付けた。ハルヒはへぇ・・・と光をじっと見上げて言った。途中光とハルヒの目が合う。光は怪訝そうにハルヒを見下ろした。



「何?」



「いや、今もそうやって笑顔のために悪戯してればまだ可愛げあったのになあって・・・」



「は?どういう意味?つーか、喧嘩売ってんの?」



ハルヒは笑って首を振った。光は溜息をついてもう一度鎖のとりつけにかかった。



「僕らがひねくれだしたのは、ともめてからなんだよ」



おりがみで作った鎖にそっと触れて光は言った。ハルヒはそれを不思議そうに見つめた。



はさ、僕らと出会ったときから双子っていう目で見なかったんだ。だけど、僕らって自分勝手だからそういうことされると双子っていう目で見て欲しくなるわけ。だからある時馨と一緒にに言ったんだ」



「なんて?」












そう、あれはたしか雨の日だった。が小さく怯えながら泣いていたあの日。あの涙は僕らの所為。僕らがいつもみたいに蛇のぬいぐるみを使って驚かした。いつもなら笑っておさまるのにその日はは泣き出した。戸惑って僕らが困っていたらは小さく言ったんだ。




「ねぇ、なんでこんなことするの?」




その時、辿り着いた先はいつもと違う場所だった。それは「涙」だった。僕らは口を噤んで泣きじゃくるを見つめた。そうしているとは立ち上がって涙を拭いながら僕らを交互に見た。



「ねぇ、光、馨、」



は僕らを2人で見てくれない。僕はついかっとなって



「なんで、一緒に見ないの?、おかしいよ」



そう言ったんだ。僕だって泣きたかった。馨は心配そうに僕を見ていた。だけど、は涙をこぼしながら思いっきり言った。



「光はどっちがいい?馨と一緒か、馨と違う。どっちがいいの?」



そこで僕は虫の居所が悪くなって逃げた。その後はすっかり忘れたようにお互い平然としてやってのけられたけれど、あの質問はいまでも頭を悩ます。









「っていうことなんだよね」




「へぇ・・・なんかいろいろあったんだね」




「それだけ?」





光は少し不満そうにハルヒを見た。そして光は下に降りてきてからハルヒの隣に立った。





「でもまだ、光はその答えが見出せないんでしょ?」



「まぁ、そうだけど」



「だったらまだ、光は成長を遂げきれてないってことだよね?」



「・・・は?」



「だから、まだ自分には何も口出しできないんだよ。あとは光が頑張らなきゃ」






ハルヒの言うことに光は少しだけ感動してしまった。光は少し照れくさそうにハルヒの隣から歩き出した。
































「やっとついたねぇ、部室。ゆっくり歩いてしゃべってたからかなあ?」



「普段より長い気がした」



「そうですね。やっぱり楽しい話とかしてるとゆっくり歩いちゃいますよね。でも、今日やっと全員揃って見れるので嬉しいです」





そう言うとハニー先輩は大きく頷いてくれた。私も笑って2人を見た。この目の前のドアを引けば、みんなが揃う。だけど、私は何故か開けられなかった。開ける前から緊張と感動がおさまらない。ふと、モリ先輩はそれを察してか私の手の上にそっと手を置いた。私がモリ先輩を見上げると、笑って頷いた。するとハニー先輩は後ろから私のことをぎゅっと抱きしめてから笑って言った。




「一緒にドアノブ引こうか!大丈夫、みんなちゃんが大好きだから」




「ありがとうございます」





ドアノブを思いっきり引く。
すると、目の前にペンキを持った環先輩が出てきた。




「わ!?」



姫!ハニー先輩、モリ先輩!」



「え、?マジかよ」



「これじゃあ作戦が台無しじゃん!」





次々と出てくる部員達。私はやっと後ろの看板に気づいて状況が分かった。看板に書かれた文字は「おかえりなさい、!」だった。私はその場で安心したような、温かい気持ちになった。そしてその場に座り込んだ。




「「?」」


双子が私を覗きこんだ。私は顔を上げてみんなを見上げた。


「ただいま、みんな」


そう言うとみんなは笑顔で声を揃えて言ってくれた。


「「「「「「「おかえり」」」」」」」






















レモンバーム




(
幸せだから、辛い事なんて考えちゃだめ)







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120229