おかえり、私の宝物はそっと微笑んだ。
「ケーキ食べるー?此処のケーキ美味しいんだよ!」
「光、上機嫌だね」
「あ、いや・・・だって」
私がそう言うと光はすぐに口を噤んだ。私が顔に?マークを浮かべて光の顔を見ると、光は何かを思い出しているようなそんな顔をして俯いた。私は光を呼ぶ。光はびくっと体を強張らせて顔を上げた。
「どうしたの?」
「だからさ・・・その・・・が帰って来たから楽しそうにしてないと・・・あれ?こういう言い方だと・・・俺、喜んで無いみたい?あれ・・・?」
光が何を言いたいかわからなかった。だけど、私の心には嬉しくて温かい気持ちになった。私は笑って光を見た。光は恥ずかしそうにこっちを見た。
「何だよ・・・」
「いや、ううん。ありがとう」
なんだかこっちも恥ずかしくなってきた。私はケーキに視線を移した。
「やっぱり。こんなところにいたんだ」
ハルヒは廊下に出て一つぽつんと座り込む人影を見つけて言った。その人影ははっと顔を上げてハルヒを見た。
「馨、なんで部室入らないの?」
「いや、別にー?ちょっと外に出たかったの」
「ウソばっかり」
馨は溜息をついてハルヒを見る。ハルヒは馨の隣に座ってじっと馨の目を見つめた。
「何?」
「いや・・・何考えてるのかなあって・・・」
「別に、ちょっとした悩み事だよ」
「魔法・・・のこと?」
一瞬馨がピタリと止まった。ハルヒは小さく頷いて空を仰いだ。馨は仕方なくハルヒと真逆を見てハルヒにこれ以上考えている事をばれないようにした。
「あのさ、馨は考えすぎだと思うよ?自分はその魔法ってのはよくわからないからなんとも言えないけれど、馨はとにかく悩みすぎだよ」
「だけど、相談するにも誰にもこんなこと相談できないんだ」
「さん・・・は?」
「絶対ダメ」
即答する馨にハルヒは微笑した。馨はそれを照れくさそうに見る。そうだ、僕がにこんなこと言ったら絶対に・・・。
「じゃあ・・・ちょっとは楽しもうよ。今日は」
ハルヒは立ち上がって馨に手を差し出した。普通こんなことを女の子にされるのだろうか。そう思いながらもハルヒの手をとって馨は立ち上がった。
絶対に誰にも言えない。
これは僕と僕の勝負だから。
「、勝負から逃げる気か?」
「は?」
「大富豪、環がやると言って五月蝿いんだ。その為にもお前は強制参加だ」
鏡夜先輩の手元にはトランプがあった。私はもうそろそろ、と思って立ち上がったのだが、仕方ない。鏡夜先輩にこう言われては帰れない。私は溜息をついて再びソファーに座った。ハニー先輩が隣で笑いかけてきてくれた。私はそれを見て安心して天井を見た。
(そういえば、馨何処に行ったんだろう)
しばらくゲームを続けていると、私の携帯が鳴った。少し会釈して部室を出てから電話に出る。
「もしもし?」
「ああ、俺だ。お前、こんな遅くまで何をやっている?」
「お父さん!あの・・・今はちょっと部活で歓迎会をやってもらってます」
「・・・お前、遊びに帰って来たわけじゃないんだぞ。わかっているか?」
「はい・・・」
お金のためだよね、そう心の中で呟いた。私は気を落として返事を返した。父はその後、早く帰ってくるように、それだけ言って電話を切った。父と話すだけでこんなに緊張する。私は壁にべったりと背中をつけてそのまま力が抜けたように座り込んだ。
「おや?姫?もう次のゲームが始まるぞ?」
環先輩がドアから出てきた。私ははっとして顔を横にやると環先輩が笑顔で私を見た。
「今のゲームは大富豪が鏡夜で大貧民がハニー先輩だったよ。あ、さっきから鏡夜が大富豪だから後で絶対に落として泣かせてやろうな!」
悪戯顔をして言う環先輩に私は笑って頷いた。だけど、立ち上がる力が無かった。すると環先輩は隣に座ってきた。
「・・・どうしたのかにゃ?」
「いや、お父さんから電話がかかってきて・・・」
途中で気づいた。先程環先輩には失礼な振る舞いをしたばっかりだったと。私ははっとして環先輩から顔を背けた。すると後ろで環先輩のふぅ、と息を吐く声が聞こえた。
「気にして無いよ。それよりもごめんね、怖かったよね」
環先輩の優しい言葉に私は思わず振り返った。環先輩はいつもと変わらない笑顔のまま私に言った。
「お父さんと何かあった?」
「いえ、いつものことなんですけど・・・やっぱり大人はお金目当てで子供を動かすんでしょうか?私、お父さんに日本には遊びに帰って来たわけじゃないって言われたんです。今しかこの時は無いのに、その一瞬のこの時を楽しんじゃいけないんですか?先輩達と過ごせる時間を楽しんではいけないのですか?」
私はいつになく冷静に環先輩に尋ねた。環先輩は笑って私の頭を撫でてきた。
「姫のお父さんは、きっとを輝くお星さまにしてあげたいんだよ」
「お星さま?」
「姫が大事だとそんな可愛い愛娘を輝かしてあげたいって思うのがお父さんだと思うよ?例えば、俺がハルヒを我が子のように可愛がるのだってそうだと思う。自分で言うのも変だけどね。だけどもし、お金目当てだとしたらそれはいけないね。でもそんなこと可能性としては低いと思う。人間はね、鈍感だから自分が知らずに愛しているものを見失っている時が多いんだって。だから、
姫のお父さんはそれに気がついてないだけだと思うよ」
すごい・・・さすがだ・・・
私はそう思ってぽかんと口を開けたまま環先輩を見つめた。環先輩は私のそんな顔を見て私の頬を優しくつねった。
「なーに、心配すること無いって」
「先輩って、すごいですね」
私は笑って言った。だけど、前から思っていた。ホスト部の私。だけど、みんなと違うところがある。それは家族、じゃないこと。それは前から聞きたくて、今なら聞けそうな気がした。
「先輩」
「何?」
「藤岡君は環先輩の娘で、鏡夜先輩がお母さん・・・その家族設定は何なんですか?」
「え?」
「私・・・環先輩の家族になりたいです」
サルビア
(突然だけど、それは私を小さくしていたものだったから)
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120229