心に火が灯ったみたいに私は衝動にかられて声に出した。













「ダメですか?」



今までのこと、ちゃんと考えて言ったつもりだった。だけど、環先輩は顔を赤らめて横を向いた。
もしかして、悪い事した?私は小さくなって俯いた。


「ちょ・・・ちょっと待ってて!」


環先輩はそう言ってバタバタと走って部室へ向かった。私は環先輩がドアの向こうに消えるのを確認してからふぅ、と溜息をついた。


「やっぱり、一線を越えるのは難しいかな・・・」






















「環、お前を待っているんだ。早くしろ」



「それどころではないのだ!鏡夜!助けてくれ!」




環は鏡夜の腕をしっかりと掴んだ。鏡夜は平然として環を見る。環の顔はハルヒが「俺」と言った時と同じような顔だった。それをしばらくみてから鏡夜は溜息をつく。




「何があった」


姫が、家族になりたいと言ってきたんだ!」




鏡夜は内心、やっぱり・・・と思った。そう言うだろう日は遠くなかったから。それでも環にこれ以上余計な心配をさせたくなくて、鏡夜は溜息交じりに驚いたフリをした。



「そうか、そんなことがあったのか」


「そうだ!でも、俺はをどの家族位置に入れていいかわからないのだ!ハルヒは娘だし、光と馨はそのお兄ちゃんズだし・・・これだとお姉ちゃん枠しかないのだ!でも、姫はお姉ちゃんは柄じゃない・・・むぅ・・・どうしたらいいのだ・・・」


鏡夜は呆れて環の話をそっちのけに考えた。環はどうして何も気づかないのか。出したくはなかったけれど、結局助け舟を出すのは俺だ。



「環、」



「なんだ?」



「じゃあ、聞くが、お前は何故今までを家族に入れなかったのか?」



「・・・さぁ?」



「・・・・・・・」





あまりにも環の顔が阿呆面だったためか鏡夜は言葉も失って止まった。環は相変わらず顔に?マークを浮かべている。





「あ、でも、それがよくわからないのだ。入れようとすると頭が否定するんだ。は、家族なんかじゃない。って」



「ほう」



「かといってを嫌いだとかそういうのじゃないんだ。だけど、を見ていると、家族って思うよりかはもっと違うんだ。なんかこう、胸がくすぐったくなるというか、もっと・・・」




「それは・・・」




鏡夜がそういいかけた時に環は頷いた。やっとわかったか・・・そう思って鏡夜は次の環の言動に注意した。が、環は鏡夜の思う回答をしなかった。





「もっと、なんていうんだ!これは。小さい子を見るような!そんな・・・あ!それよりもいい表現を思いついた!道端の犬だ!可愛い犬を見つけるとほわーっとなるだろう?あれに近いのだ!!でも、もっと違うか?あれ・・・?」



鏡夜は呆れて環から逃げようと先を歩いた。環はそれに気づいて鏡夜の袖を目一杯引張った。鏡夜の冷たい視線が環に降りかかる。



「鏡夜、俺はどうしたらいいのだ!?」



「お前みたいなやつに苦労している奴はたくさんいるんだ。自分で勝手にしろ」



だっていい迷惑だ。こんな風に見られていると知ったらをどうするだろうか。そう言って鏡夜は広間のソファーの方へと歩き出した。























「ふーん。いいこと聞いちゃった」



「あれ?馨、おかえり」





馨がひょこっと光の隣から顔を出した。そう、この2人は今の会話を全て聞いていたのだった。光は曖昧な顔をして、馨は先程の元気の無さを覆い隠すかのように溌剌としていた。




「へぇー。殿ってさぁ・・・」




馨がそう言いかけると光は頷いてから馨に笑いかけた。





「変態だよな」





一瞬、馨が止まった。光はそんな馨を見て顔に?マークを浮かべた。だけど、馨はすぐに顔を戻し光に頷いた。





「う、うん。そうだね」






















(やっぱり、少しずつ違ってきてる)







































どれくらい待っただろうか。私は壁にべったりと背中をくっつけて待っていた。もう、なんだか恥ずかしくて環先輩に顔を合わせられない。そんな風に考えはじめていた。すると、環先輩がタイミングよくドアを開けて出てきた。




「先輩、あの・・・さっきのは「いや、よーく考えたんだが」



「俺は姫を家族に入れて無かったんだな。ごめんね」



「は、はあ・・・」




あれ?なんだか想像していたのと違う・・・私はそう思いながら環先輩をまじまじと見つめた。環先輩の顔が一瞬曇る。だけどすぐにその顔は晴れて笑顔になる。まるで、不安なんて吹きとんでいくみたいに。




「今空いてるのはお姉ちゃんなんだが、どうだ?ハルヒのお姉ちゃんになるか?」



「は?」



「ん?どうしたのかにゃー?お姉ちゃんはやっぱり嫌か?だったらハルヒの妹でも」






嬉しくて声が出なかった。私は俯いて環先輩を直視しなかった。環先輩はおどおどしながら私を覗きこむ。




姫?」



「あ・・・りがとうございます・・・」




泣きそうで、泣きそうで、私は苦しかった。口を押さえながら環先輩を見上げる。
環先輩は私の肩にそっと腕を回して私を引き寄せた。




「ほら、泣かないの。で、どっちがいい?お姉ちゃん?妹?」



「じゃあ、妹で・・・」



「うむ、これで一件落着だな。さ、我が子よ!一緒に大富豪をやりに行こうではないか。お母さんもお兄ちゃんズもお姉ちゃんも待ってるぞー」




私は頷いた。

だけど、もう一つだけ、






もう一つだけ、我侭聞いて欲しいの。






私は環先輩の袖を掴んで環先輩の動きを止めた。環先輩は驚いて振り返る。



















「先輩・・・、って呼んでください」


























環先輩は一瞬止まった。だけどすぐに笑い出した。意味の分からない行動に唖然としていると環先輩は私の頭をポンと軽く叩いた。






















「そうだね、って呼ぶよ。うん」






















「あははーじゃーさきいってるよー」なんてちょっと酔っ払った人みたいにふらふらしながら環先輩は部屋へ戻っていった。私はしばらく嬉しさに浸っていた。環先輩とやっと近づけた。そんな嬉しさに。



























「おーい、環、は・・・」



○×△◎!!!」



「環?」




毎度のことながらだけどどうもこの環には慣れない。鏡夜はそう思って環の肩に手を置いて宥めるかのように名前を呼んだ。振り返ると環は口を押さえて頬を赤く染めていた。




「環、お前・・・」




「な、なんだ!鏡夜、盗み見はよくないぞ!」




と一緒じゃなかったのか?」





その時、環が見せた顔は何を意味するのか、鏡夜にはわかったかもしれない。もしかしたらその近くにいた他の部員も分かる人には分かっただろう。










イブキ


(それは幸せとも呼べるだろう)



--------------------------------------------
120304