同じ日常が戻ってきた。















「「おはよー!ほら、これ。初仕事のために僕らがカタログ作ってきてあげたよ!」」






いきなり差し出されたのは大きな封筒だった。私はそれをゆっくりと開けた。中にはピンク色の表紙に「ホスト部入門のすすめ」と書かれていた。「徹夜したんだよー」や、「僕らの厚意を無駄にしないでよー?」といった声が聞こえてきたが、それよりも私はその目次に驚いていた。「1.僕らとのお約束」「2.ホスト部の歴史」などなど、どれも惹かれるタイトルであったが、きっとこれは2人の自分勝手なホスト部の説明なのだろうと思った。私はあまりショックを受けないように、そっとカバンに閉まった。後で見よう・・・




「え!?しまうのー?」



「見てよ!」



「えー、やだよ。だってどうせ悪戯でしょ?」





違うって!2人の手が私の目の前に来る。同じタイミングに手が降ってきたので私は笑った。すると2人も笑って私の髪をくしゃくしゃにしてきた。



「「ほらー見ろよー!」」



「見ないよ!嫌だ!」



「「見ーろー!」」



「あ、そうだ。私担任の先生のところにいかなきゃ」




いくら、同じところに戻ってきたって転入生は転入生。私は焦って廊下をパタパタと駆けた。廊下で偶然会ったクラスメイトも平然として迎えてくれたしすっかり自分の状況を忘れていた。それに、昨日あった母とのことだって・・・。先生に会うと先生は吃驚して口を押さえた。



「すっかり大きくなって」



「そんなことないですよ」



「そう、じゃあ行きましょう」




先生に背中を押されて歩く。私は時計台を見た。私の心のチャイムが始業のチャイムと重なった。






















教室に入ると皆平然として私を迎えた。まるで、何があったの?そんなように。簡単に自己紹介をすると、先生は座席表を見て顔をしかめていた。



「何処にしましょうか・・・」



「「先生ー!僕らの隣で!」」



「いえ、藤岡君が入ってるでしょう?じゃあ・・・馨君の席の隣に座ってくれる?」



にっこりと笑った先生はその席を指差した。私はゆっくりと歩いて馨の前までつくと馨を見下ろした。馨は笑顔でよろしく、と会釈した。私も笑って言い返す。静かに座ると私は馨に小さく話しかけた。




「教科書、変わったみたいだね、もってないから見せて」



「いいよ」



馨は静かに座席を私の隣まで寄せた。さすがに至近距離で馨を見た事が少なかった私は少しだけ吃驚した。腕と腕が触れ合う距離。こんなに、近いのは初めて。



静かに授業が始まった。馨は、光に比べていくらか真面目に授業を聞くほうだから私もしゃべらなかった。私は、馨の時折見せるつまらなそうな顔を見ては溜息をついた。授業って、誰が隣でもつまらないな・・・



そう思っていると、馨は私の腕をちょんとペンで突っついた。馨を見ると、馨はノートに何かを書いていた。それを指差す。




『ねぇ、今日は部活来る?』



私も対抗して自分のノートに文字を書く。そして同じように指差す。




『行くよ。今日から初仕事だしね』



馨が楽しそうにそれを見て書く。



、隠しとかなきゃ』



『なんで?』



『姫たちにバレたらきっと大変だろうし・・・』



『別に平気じゃない?』



『いや、転校早々それはダメでしょ』





私のことを心配してくれてる・・・?私は馨の顔を覗きこんだ。至近距離だったから恥ずかしかったけど、嬉しくて。私は小さく馨に囁いた。




「馨、優しいね」





案の定馨は吃驚したような顔をした。そして馨は私から少し離れようとした。その瞬間、馨のペンケースが下に落ちる。





「大丈夫?」




私も慌てて椅子から降りて馨と同じようにしゃがみこんでペンを拾う。馨は相変わらず口を利いてくれなかった。なんでだろう?謎は深まる一方だった。最後の一本を私が拾うと馨は私の差し出したペンをじっと見てから、私の目をじっと見た。なんだろう・・・どうしたの?目で訴えると馨は立ち上がって椅子に座った。私も同じように座る。



「ねぇ、何?」



私が冷たく聞くと馨は頬を染めて私を見た。



「・・・ズルい」



「は?」




私が馨にどんな風に見えたかはわからないけれど、馨は私の顔を見てから溜息をついてペンでノートに文字を書き殴った。そしてとんとん、と指をついてノートを指差す。顔を近づけて見て見るとそれは馨らしくない小さな字だった。






















『どこでそんな顔覚えてきたわけ?モデルやってたらそうなるものなの?』






















私は一瞬何かわからなくて馨を見た。馨は私の顔を見て呆れたのかそっぽを向いた。もう一度目で確認する。確かに、そう書いてある。一足遅い喜びに見舞われた。これって、ホメ言葉だよね?私は嬉しくて思わず笑みがこぼれた。声にだして噴出してしまったのを馨に気づかれ、隠そうとした。だけど、そんなこと絶対に無理で馨は私の顔を不思議そうに見た。




「何で笑うの?」



「いや、だって、馨おもしろいこと言うなあって・・・でも、嬉しい。ありがとう」



「・・・別に。思ったこと口に出しただけだから」






それでも嬉しいよ。こんな風に言ってくれると本当に自分が自分でよかったと思えるから。私は嬉しくてその授業時間は胸が温かい感じだった。









そういえば、5つの願い事って何なんだろう。























授業が終わると、ホスト部へ向かうお姫様たちよりも早く部室へ向かえるように走った。3人を置いて行ってしまったのが心残りだけど、見つかるのはやばいってことが分かったならなおさらこうやって早く行くべきだ。誰も居ない部室へ入ってカバンの中から朝貰ったカタログを開く。そこにはやっぱり、2人の自己中心的な考えがつらつらと述べられていた。私はそれを笑いながら見た。そして最後の方までとばして見るとそこにはお菓子の会社の一覧があった。それを頼りに自分の記憶を辿る。あそこの会社は何が美味しかったっけ?プリンならどこの会社かなあ・・・?いろいろと考えているうちに誰かが入ってきた。見るとそれは1−Aの美男子トリオと呼ばれている3人だった。




「「あ、ー!」」




「早いですね」




「だって、女子が来ないうちにやっておかないと。あ、お客さんが来たら私は準備室にこもってお菓子の勉強してるから、何かあったら来てね。あとはホスト部の空調管理とかも任せて」



「へぇ、それは頼もしいですね」



「「、そんなとこでこもってるの退屈じゃないわけ?」」




うん、でもしょうがないよ。私は苦笑いをして時計を見た。もうそろそろ先輩も来ていつものように華麗なる遊戯の始まりだ。私は準備室の部屋のドアに手をかけて3人を振り返った。



「じゃ、がんばって!」



「「あ、一緒に帰ろうな!」」



「そちらも頑張ってくださいね」



私は頷いて部屋へ入った。しばらくするとやっぱり部員達がやってきた。そして女の子の声もする。女の子が入ってくるたびに聞こえる、「いらっしゃいませ」の声が綺麗に揃っている部員の声を聞いて私はまだ、家族に馴染めていない気がした。








キボウシ


(
まだちゃんと踏み入れてない)







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120305