GWも終わりレコーディングテストまであと2週間となった。
私と音也くんは追い込みということで毎晩遅くまで練習していた。
「・・・と、今日はここまでにしようか」
「そう、だね」
私がノートを閉じると音也くんも荷物をまとめ始める。
レコーディングテストがあるからか、レコーディングルームの予約はいっぱいで
中々実際の試験会場で練習することはできなかった。それでも練習はしなきゃいけない。
少しくらい体に負担をかけてでもこのテストだけはクリアしたいのだ。
うわさによると月宮先生だけが試験監督ではなくて、Sクラスの日向先生、それから学園長も試験を見に来るらしい。そこで、ある程度実力を先生側が把握し、卒業オーディションや成績の参考にもするようだ。これを聞いてから私と音也くんは練習により一層力を入れるようになった。
教室のドアを閉めて私と音也くんは真っ暗な廊下を歩いた。
二人の足音だけが廊下にこだまする。
「、最近こうやって遅くまで練習してるし、朝も早く来て練習してるし・・・つらくない?」
「え?」
「いくらパートナーでもさ、無理させちゃいけないと思うんだよね。もし、つらかったら遠慮なく言ってね?」
音也くんが私を心配そうな顔で見つめた。
大丈夫、だよ。
私は首を振って笑いかけた。
「大丈夫、全然大丈夫だから。音也くんこそ、ちゃんと言ってね?」
私がそういうと彼は微笑んだ。
そして頭をくしゃっと撫でる。
「俺もだいじょーぶ。あ、試験終わったらさ、どっか遊びに行こうよ!」
「いいね!たまには息抜きも必要だしね」
「じゃあ俺、プラン考えておくから!楽しみにしてて」
「ありがとう」
そう言うと彼は頷いた。
気が付けばもう寮の近くまできている。
本当、彼と一緒にいると時間が経つのは早いものだ。
「じゃあ、俺、こっちだから」
「うん、また明日ね」
私が手を振ると音也くんは大きく頷いてから手を振り返してくれた。
私は彼の背中が見えなくなるまでじっと見つめていた。
*
「おかえり」
「ただいま」
寮に戻ると友千香ちゃんが雑誌を読みながらベッドに座っていた。
私は荷物を机に降ろしてブレザーを脱いだ。
「ほんとあんたら遅くまで練習してるね、で、明日も朝早くから練習でしょ?」
「うん、でも全然苦しくないよ」
「羨ましいわー。あたしのところのパートナーなんてさ、練習は毎日2時間程度でいい、とか言っちゃってさ。今日も夕方から2時間しかやらなかったわけ。課題曲、何気に難しいし、本当にこんなんで大丈夫なのかなあーって思うわ。特に、あんたのところ見てると余計焦る」
「それぞれやり方が違うだけだよ、私のところは圧倒的に練習量が必要だったから」
私がそういうと友千香ちゃんはため息をついた。
私がそれを心配そうに見ていると、今度はにやりと笑ってベッドをぽんぽん、と叩いてこちらを見た。
きっと、ここに座って、の合図なのだろう。
「で、音也とは最近どうなのよ?」
「え・・・?」
「仲良くやれてる?」
「う、うん」
私がそう頷くと友千香ちゃんは頷きながらにやりと笑った。
私はそれに少し戸惑いながら俯いた。
「音也に何かされた?」
ふいにそう尋ねられて私はびくっと身体を震わせて首をぶんぶん振った。
すると友千香ちゃんは「怪しい」と笑いながら私をじっと見つめた。
「あんたら、GWに何かあったっしょ?GW明けてからなんかやけに仲いいもんね。こう、前とは違う雰囲気で・・・」
「え?そうかな・・・?」
「友達以上恋人未満、みたいな」
そう言った瞬間、私は手に持っていた教科書を落とした。
私は慌てて床に落ちた教科書と挟んであるプリント類を拾い始めた。
それを見て友千香ちゃんが声を上げて笑った。
「なに取り乱してんの!・・・で、付き合ってるわけ?」
「そんなわけないよ!付き合ってなんか、ないよ。それに、恋愛は禁止だし・・・」
「まあ、それはあるけど・・・。でも、隠れて付き合うことだって出来なくはないし、片想いはしてもいいわけでしょ?」
「そうだけど・・・そんなこと考えたこと、ないや」
音也くんと付き合う。
音也くんが彼氏になる。
そんなことは考えたこと無かった。
ただ、隣にいてくれて、音也くんの曲を作れればそれでいい、と思っていたから。
そんな風に意識したことは無かった。
でも・・・
そういわれてみれば、抱きしめられたことや頭を撫でてもらったことなど、
彼の一挙一動がそういうことのように感じられてくる。
私は顔が熱くなるのを感じた。
「?」
と、名前を呼ばれて我に返る。
私ははっとして友千香ちゃんを見た。
すると彼女は私の頭を撫で始めた。
「可愛いねー、ほんと可愛い。何かあったらすぐにおねーさんにいうのよ?分かった?」
そう言って私の顔を覗きこんだ。
私は黙って頷いた。
音也くん・・・、
*
「よお、音也」
廊下を歩いていると、ふと後ろから声をかけられた。
振り返るとそこにはレンがいた。きっと女の子とのデート帰りなのだろう。
「レン、遅いね」
「今日はデートだったからね。音也こそ、こんな時間に帰るなんて」
「俺はレコーディングテストの練習してたの」
「ああ、なるほどね。頑張るねー」
そういってレンは笑って頭をくしゃっと撫でてきた。
なんだか子供扱いされたみたいで少しむっとしているとレンはぱっと手を離しじっとこちらを見てきた。
「そういや、パートナー・・・」
「ん?のことか?」
「そうそう。あのレディと君、パートナーなんだったね」
何で知ってるんだろう?と思いつつ頷くとレンは笑った。
「中々惚れこんでいるみたいだけど、実際どうなんだ?」
何を突然聞いてくるのだろうか。
というか、惚れこんでいるって誰から聞いたんだ?
きっとマサが言ったのだろうけど、この人はこの人なりの解釈をしているに違いない。
惚れこんでいるけれど、それは恋愛感情、とかじゃなくて。
「惚れこんでるけど、それはレンの思ってるようなことじゃないよ」
そう言うとレンは不適に笑った。
「さて、どうかな?」
「・・・」
どうして本人がこう言っているのにこの人は聞いてくれないのだろう。
自然とため息が出る。
「まあ、うまくやれよ?」
そういってレンは肩をポン、と叩いて歩いて行ってしまった。
しばらく一人立ち止まって考えた。
のことを、そんな風に見た覚えなんてなくて。
でも周りにはそう見えていて。
そう考えると、今まで自分のしてきたことはそう誤解させることだったようで。
でも、それは自分なりの表現で。
・・・よくわからなくなってきた。
「・・・、」
俺は知らず知らずに彼女の名前をつぶやいていた。
Modulation
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