いよいよレコーディングテストの日がやってきた。私は緊張して中々寝付けなくて、ベッドで何回も寝返りを打ったりした。友千香ちゃんにも朝「あんた昨日すごかったね・・・」なんていわれて、鏡を見てみると見事に寝癖が付いているのが分かった。私はヘアピンで応急処置を施して中々の仕上がりだったので鏡の前で少し頷いてみる。そう、今日が作曲家への第一歩を踏み出す記念日となるのだ。

いつもより早めに寮を出て私は教室へ向かった。と、教室がある階へたどり着くと聞き覚えのあるギターの旋律が聞こえた。きっと音也くんだ!私は駆け足で教室へと向かった。

教室にたどり着くと、やっぱり。音也くんがギターを弾いて歌っていた。私が来たのを見て演奏をやめて、音也くんは駆け寄ってきた。


「え、あ!やめちゃうの?」

「え?だって、きたし・・・おはよーって言おうと思ってて・・・」


そう言って彼は私に笑顔を向けてくれた。その笑顔になんだかきゅーっと胸が狭くなるのを感じながらも私は「おはよう」とつぶやくように言った。


「おはよう」

「お、おはよう!」

「おはよっ」



私が2回目の「おはよう」を言ったせいか、音也くんはもう一度元気よく挨拶してくれた。お互いまたその状況にぷっと笑い出す。こんな私たちだから、もしかしたら今日のテストはうまくいくんじゃないかな、と過信してしまいそうになる。


、それ寝癖?」


と、私の不自然に止まっている髪の毛を指差して音也くんは不思議そうな顔をした。
私が黙って頷くと音也くんは手を伸ばしてそのヘアピンを取った。ぴょん!と本当にそんな音を立てそうな勢いで私の髪の毛が跳ねる。それを見た音也くんは噴出して腹を抱えて笑い出した。


「ちょ、音也くん!?」

「寝癖っ!あははっ、すげー跳ねてる!」

「昨日眠れなくて何回も寝返り打ったらこんなことになっちゃって・・・」

「あははっ、可愛い」


寝癖を「可愛い」って言われたってそんなに嬉しいことではないのに、なんでだろう?音也くんに言われるとすごく嬉しくなってしまう。私は恥ずかしくなってきて俯く。すると音也くんは私が怒ったものと勘違いしたのか慌てて謝ってきた。


「俺もね、眠れなかったんだ」


そう言った音也くんを見上げようとして顔を上げる。と、音也くんの髪の毛が少しはねているのが見えた。もしかして・・・そう思い私がじっと見つめていると、ようやく気づいたのか恥ずかしそうに髪を抑えた。


「じ、じつは俺も・・・」


私は思わず噴出して笑う。すると音也くんは頬を膨らませて恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「おそろいだね」

「俺たちってばほんと・・・笑っちゃうね!」


そう言って音也くんも声を上げて笑い出した。私たちの声が誰もいない教室に響く。


こんな小さな幸せがすごく嬉しい。






















いよいよレコーディングテストだ。出番になるまで教室で待機しなくてはならない。この日ばかりはにぎやかな教室も妙に静かだ。私と音也くんもおとなしく椅子に腰掛けている。私と音也くんは楽譜の最終確認を行っていた。


「次はちゃん、一十木音也くんね。はい、レコーディングルームに向かってきて頂戴」


月宮先生の声がスピーカーから聞こえてくる。私たちは立ち上がって教室のドアへと向かっていった。
教室を出ると、音也くんが深呼吸をした。私も同じように隣で深呼吸をする。


「よしっ」

「音也くん、頑張ろうね」


私がそう声をかけると彼は頷いてくれた。

少し歩くとレコーディングルームが見えてきた。練習で行ったときはもう少し遠い場所にあったような気がしたのに、今日はなんだかすごく近く感じる。私たちはドアの前に立ちすくんだ。音也くんが息を呑む。相当緊張しているようだった。と、音也くんは私の方をちらりと見た。



、最後にお願い言ってもいい?」

「え?」

「手、一瞬でいいから握ってくれる?」




そう言って手を差し出してきた。私はおそるおそる手を握る。すると音也くんはぎゅっと握り返してくれた。そしてぱっとすぐに手を離す。そして私の方を再び見た。



「よし、入るよ」

「うん」


私はドキドキと鼓動がうるさいのを感じながら音也くんの後ろをついてレコーディングルームへと入った。
入るとそこには月宮先生、日向先生、学園長が椅子に腰掛けていた。私と音也くんは「よろしくお願いします」と軽く会釈して準備に取り掛かる。と、月宮先生と目が合った。すると先生はウィンクをしてくれた。私は頷いて準備を再開した。・・・頑張ろう。



「じゃあ、オトくん。準備が出来たらサイン出してね」


ブースに入った音也くんに月宮先生が話しかける。ヘッドフォンを装着した音也くんは頷いて、それからこちらを見た。私はぐっと拳を作って口パクで「がんばれ」と合図した。するとそれが音也くんに伝わったのか彼はピースサインをしてくれた。



「お願いします」


音也くんの声が響き渡った。私は息を呑んだ。



始まる―・・・。

Harmonieux



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120227