一声で、私の心は全部持っていかれてしまいました。
その後、生徒たちもぞろぞろと集まり、教室はにぎやかだった。
音也くんと最初に出会ったおかげで周りにいた那月くんや真斗くんとも
仲良くなることが出来て、さらに寮で同室の友千香ちゃんとも偶然同じクラスだったので、
あっという間にみんなと友達になることができた。これから1年このメンバーでやっていくと思うと
ドキドキが止まらなかった。
私たちが他愛ない会話をしていると、教室のドアが開いた。
そこから、あの超人気アイドル月宮林檎が明るい声で登場した。
「はぁーい!みんなー席についてー!」
テレビを通して何度も見てきた顔だけど、実際見ると、余計に女性にしか見えない。
私がじっと目を凝らして見つめていると、後ろから音也くんに肩を叩かれた。
振り返ると音也くんは身を乗り出して私に耳打ちした。
「月宮林檎って、マジで女の子にしか見えないよなあーあれで男とかほんとに信じられない・・・。
きっとあそこまでするのにめっちゃ苦労したんだろうな・・・」
「ん〜?何かな、一十木音也くん?」
音也くんがそうつぶやいた途端、月宮先生は私と音也くんの目の前にやってきた。
私はびっくりして思わず口元を手で覆った。き、聞こえてた・・・。
音也くんは焦って首をぶんぶん横に振っていた。
「や、ほんとなんでもないっす!ほんと!」
「ほんとにー?まあ、いいわ。時間も無いし、説明に入るわね」
そういって先生は教卓のほうへと戻っていった。
私と音也くんは顔を見合わせてくすりと笑った。
きっと楽しい生活が待ってる。
*
説明が終わり、とうとうパートナーを決める時間となった。
パートナーは先生が提案した「お見合い席替え」で決めることにになった。
これは、先に作曲家志望の人が用意された席の左列のどこかを選んですわり、
右列をアイドル志望が自由に選んで、隣同士になった者同士がパートナーとなる、というものだった。
まずは作曲家志望が席を決める。私は教室に残って先生の説明を聞いた。
どんな人とパートナーになれるのかなあ。誰がいい、とかは今のところないけれど、
出来ることなら先ほど仲良くなった人たちがいいなあ、なんて思った。
まあでも、それよりも自分がこの1年でちゃんとそのパートナーと一緒に曲を作っていくことができるのか
というのが一番気がかりであった。
「さ、じゃあ作曲家志望の子は席を決めてっ!」
私は先ほど座っていた席を見た。
ここに座ったら・・・
なんて考えていたら月宮先生が私の肩に手を置きながら話し始めた。
「あ、さっきまで座っていた席はだめよー!それじゃあ意味無いもの」
そして私の目を見てニコリと微笑む。私は戸惑いながらも会釈して辺りを見回した。
どこに座ろう。
と、ふと朝のことを思い出した。
音也くんが座っていた机。歌っていた声。そして、音也くんの表情。
私はその窓際の前から3列目の机を見た。そしてその机のほうへ向かう。
再び思い出す彼の声、ここに座れば・・・。
私は椅子を引いて腰掛けた。
すると月宮先生が手を叩きはじめた。
「決まったようね。じゃあ、アイドル志望の子を呼ぶから貴方たちは席を立って、教室から出て頂戴」
私は立ち上がって教室を出た。
すると音也くんたちが私を出迎えてくれた。
「おかえりっ」
「おかえり」なんていわれたのはいつ振りだろうか。
たったそれだけのことなのに、私は嬉しさがこみ上げて固まってしまった。すると不思議そうに那月くんが
私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?どこか具合でも悪いのですか?」
私ははっとして首を横に振った。
すると、隣にいた友千香ちゃんが私の肩を軽く叩いた。
「もうっ、なーに固まってんの。しっかりしなさい!さ、あたしらも席決めてくるか。目指すはの隣!」
そう言って友千香ちゃんは教室に入っていった。
そしてその後に3人も続いた。私はその背中を扉が閉まるまで見つめていた。
この中の誰かと席隣だったらなあ・・・。
*
アイドル志望の子たちが教室から出てきて、月宮先生もそれに続いてやってきた。
どうやら先生のほうの確認も終わったようだった。
先生はルンルンとしたノリで自分の手帳にパートナーを書き込んでいた。
「これでよしっ、と。さ、教室に入ってさっき自分が座った席に座って頂戴。
授業を受けるときもその席で受けてもらうから、よろしくねっ」
そうしてぞろぞろと生徒たちが教室内へ入っていった。
私も続いて教室へ入る。私が座ったのは・・・確か・・・。
私は席を見つけるとそこへ一直線に向かった。
そして椅子に腰掛ける。窓際だからか、窓の外の太陽の温もりが感じられて心地よい。
本当にいい席を選んだなあ。なんてのんきなことを考えながらも辺りを見回した。
那月くんは一番前の一番出口に近い席で、その後ろが友千香ちゃん。
そしてその隣の列の真ん中に真斗くん。・・・あれ、音也くんは?
音也くんの姿が見当たらない。私はキョロキョロと辺りを見回した。
と、ふと視界が真っ暗になった。私は思わず声を上げる。
「わっ・・・」
「だーれだっ」
温かい手に目を覆われる。
私はその手をがしっと掴んで解こうとしたが、その手は解けなかった。
「のパートナーはだーれだっ」
「え?え?」
私が頭を混乱させているとその声の主は私の耳元でそっと囁いた。
もしかして・・・。本当に・・・?
私は信じられないくらい鼓動が早くなっていくのがわかった。
この声は・・・
「だーれだっ?」
「音也くん・・・?」
そう言うと音也くんは手を離して私の顔を覗き込んで笑顔で言った。
「せーかいっ」
本当に?
音也くんが私のパートナー?
私が口元を手で覆って固まっていると音也くんは隣に座って私の顔を見て笑った。
「固まってる!」
「だって・・・え・・・ほんとに?」
「ほんとほんと、今、の隣にいるのは一十木音也です!なんちゃって」
「ほんとにほんとに音也くんなの?」
「もー、驚きすぎー!」
「だって・・・」
嬉しくて涙が出そうだった。でもそれは必死に抑えて私は音也くんの方をむいて
座りなおした。音也くんが急に改まった私を見てびっくりする。
「?」
「よ、よろしくお願いします・・・!」
私がそういうと音也くんはにかっと笑って私に向かってお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしくな!」
そんな私たちを見ながら月宮先生はくすりと笑った。
(あの子たち、中々面白いことになりそうね)
Con ardore
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1201223