音也くんに楽譜探しを手伝ってもらって早2時間が過ぎた。もう時間も遅くなってきている。この時間に校舎内にいることが警備員に見つかったら怒られてしまうだろう。そんなことも気にかかってきた。音也くんは走り回って色々なところを見てくれている。私も隅々まで色々な場所を見て回っているが、やはりどこにも楽譜は見当たらない。もう、あきらめたほうがいいのかもしれない。そして、何より音也くんの勉強時間を今も奪い続けているこの状況からなんとしてでも脱せねばならない。

「音也くん・・・もう、いいよ。大丈夫、私なんとかするから」

「よくないよ、なんとしてでも見つけないと」

「今から作り直せば朝までに出来ると思うから、だから・・・」


・・・また嘘をついてしまった。あの指定の五線紙でなければ提出は認められない。ゆえに、今から作り直したとしても提出は認められないのだ。それでも音也くんがこのルールを知っているはずもないだろう、そう思い私は音也くんに言った。すると彼はなんだか腑に落ちないような顔をして私を覗き込んだ。


「ほんとに?」

「うん、頑張ってみる」


私がそう言うと彼は私の頭をくしゃっと撫でてくれた。そして小さく「頑張れよ、信じてる」と言ってくれた。


―頑張る、信じるよ




















*寮に戻るや否や友千香が私に抱きついてきた。私は何度も謝った。けれど、本当のことは言えなかった。明日、とりあえず朝早くから校舎をもう一度探してみよう。それでダメだったら、先生に事情を話してみよう。もちろん、明日は私一人で探す。これ以上誰にも迷惑をかけたりしたくないから。

絶対、見つかりますように。

私はそう願いながら机に向かい、試験勉強を始めた。














朝になって、私は友千香が起きる前に寮を出て楽譜探しを再開した。昨日は真っ暗且つ警備員に見つからないようにと探すことが大変だったが、朝方だと堂々と探すことができる。太陽が照り付けていて、朝方なのにも関わらず少し汗ばむ気温だ。私は汗を拭いながら必死で色んなところを駆け回った。けれど、やっぱりどこにも無い。私は段々と焦りを感じ始めていたが、それを必死に押えつけていた。大丈夫、絶対どこかにある。


















友千香はいつもよりも早めに教室へと向かった。すると音也がいつになく真面目に机に向かっていた。それがなんだか可笑しくて友千香はにやりと笑いながらそっと近づく。すると音也はそれに気づいて吃驚して教科書を落とした。


「うわっ、吃驚した」

「おはよ。早いじゃん」

「試験範囲まで勉強終わらなくてさーもー全然頭入らなくて・・・あれ、は?」

「あたしが起きたときにはもういなくて・・・図書館で勉強してるのかな?」

「作曲・・・終わらないのかな・・・」

「え?」

「いや、あのさ―「一十木」


音也が話しかけたその時、友千香の後ろから真斗と那月がやってきた。


「二人共、おはよう」

「マサ、那月おはよー」

「ああ、おはよう」

「おはようございます」


一通り挨拶を済ませると真斗は先ほど言いかけたことを口にした。

「一十木、さっき校舎を歩いていたときにを見かけたんだが・・・何やらひどく焦っていたようだった。お前、何か知らないか?」

「え・・・、やっぱり作曲終わってないのかな・・・」

「でも、作曲は・・・ちゃん早い段階から取り組んでましたし・・・」

「うん、、ずいぶん前に終わってたよ?昨日『あとは試験だけだ』って言ってたし」



友千香が不思議そうにそう言うと音也は息をついた。きっともみんなに心配かけたくなくて黙っていたのだろう。けれど、ここで事情を話さないわけにはいかない。音也は小さく頷いてから事情を説明した。
















「じゃあ一からやり直してるの!?」


友千香が声を張り上げた。音也は黙って頷く。と、その隣で真斗が何かに気づいたような顔をした。そして三人を見る。

「作曲の課題提出は確か指定の五線紙を使わなくてはならなかったはずだ。だからその五線紙を使っていないければ、作り直したとしても認められない。」

「え・・・じゃあが作り直してるものは・・・」


「おそらく無効だ。しかし、のことだ。そのルールくらいは把握しているはずだ。だとすれば・・・は作り直してなんか無い」







「きっとまだ、は楽譜を探してる」


音也はそう呟いてからガタッと椅子から立ち上がった。そして教室のドアを勢い良く開けた。
その背中に友千香が声をかける。


「ちょっと、どこ行くの!?」

「俺、と一緒に探してくる」

「でもそんなことしたらちゃんだけでなく音也くんまで・・・」

「一十木、試験時間まであと少しだ。お前まで失格になったら―「は俺の大切なパートナーだから」


音也は遮るように言ってから三人の方へ振り返った。そして一息ついてから口を開く。




「それに・・・、早く屋上でとまた練習したいんだ」




くしゃっと笑いながらそう言うと音也は教室を出て行った。




Moitie





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120403