無い。やっぱりどこにも無い。探しても見当たらない。汗が頬を伝う。この汗は暑さから来るものではない。きっと、冷や汗だろう。どんどんと焦りが押し寄せてきて胸の鼓動が早くなる。心当たりのある場所は全部探した。もうこれ以上、どこを探せばいいのかも分からない。私は思わず立ち止まって額の汗を拭った。時計に目をやるともうとっくに試験時間を過ぎていた。力が抜けてその場に座り込む。


・・・テスト、受けられなかった。

この先どうなるんだろう?


きっと卒業オーディションも受けられなくなる。



音也くんの曲、作れなくなっちゃうかもしれない。



こんなことで・・・夢が消えていくなんて・・・。



じわりと涙がこみ上げてくる。私がそれを袖で拭おうとした瞬間に後ろに人の気配を感じた。







?」


その声は今、一番聞きたかった、いや、聞きたくなかった人の声。
音也くんだ。私ははっとして目を勢いよく袖で擦ってから振り返る。

やっぱり・・・。彼の視線は不安そうに私に注がれている。


「音也くん・・・」

「なんで本当のこと言ってくれなかったんだよ」

「音也くんまで巻き込んだら迷惑がか「パートナー」


彼は私の言葉を遮るとじっとこちらを見つめてきた。私はその視線に耐えられず思わず目を背ける。



、俺の目を見て」

「でも・・・」




彼の手が私の額を持つ。私は間近で音也くんの顔を見つめざるをえない状態になった。
思わず、涙が溢れてくる。


「私・・・どうしたらいいかわからなくて・・・、でも迷惑かけたくなくて・・・」

「俺、パートナーだよ?は頼らなさすぎ。もっと頼っていいんだよ」

「音也くん・・・」


私が呟くと音也くんは私をぎゅっと抱きしめてきた。涙がぼろぼろと零れ落ちる。
私がおそるおそる彼の背中に手を回すと音也くんは私の背中をゆっくりとさすってくれた。




「よしよし、大丈夫だよ。泣き止んだら、もう一度探してみよう」


「・・・うん、」




私が頷くと音也くんは優しく私の頭を撫でた。
と、いきなり轟音が響き渡って、聞き覚えのある笑い声が聞こえた。
私たちははっとして身体を離した。振り返るとそこには学園長が不敵に笑ってこちらを見ていた。




「二人共、合格デース!」







「「・・・へ?」」




























どうやら、全て学園長の作戦だったらしい。
くじ引きでランダムに選ばれた一組がテスト直前に思わぬトラブルに直面することになる。そこでどう対処するかを見極めて成績をつけるのだそうだ。必然的にその一組はテストを受けることができなくなるらしい。それが、私たち2人だったのだ。


私と音也くんがそれを聞いて呆然と立ち尽くしていると学園長は手に持っていた楽譜を私に差し出してきた。見るとそれは私がずっと探していた楽譜だった。私ははっとして顔を上げる。すると学園長は少し笑って頷いてくれた。



「君たちは試験に合格しましたカラ、今日は帰ってゆっくり休んでクダサーイ」


「え、ちょ!俺の実技試験は!?」


「パスデース!」


「ええっ!?」


音也くんがそう声を漏らすと、もうすでに学園長は姿を消していた。
私と音也くんは顔を見合わせる。なんだか、一気に力が抜ける。


「・・・なんていうか・・・学園長の存在忘れてたよね。そういや、この学校なんでもアリだったな」


「でも、見つかって良かった・・・。これ、音也くんにも見てもらいたかったし・・・その・・・」


「ん?」


「良かったら、歌ってもらいたいんだ・・・」


私がそう呟くと音也くんは嬉しそうに笑って大きく頷いてくれた。
私はなんだか恥ずかしくなって楽譜で顔を覆った。ちらりと隙間から音也くんの顔を見る。
すると音也くんも少し顔が赤くなっていて、それを見た途端鼓動が早くなるのを感じた。
と、目が合う。音也くんは息をついて大きく伸びをした。


「でも、良かったー。これで一件落着だね」


「そうだね、音也くん・・・、本当にありがとう」


「いーって。パートナーなんだから当たり前だしょ?俺ら、一緒に優勝するって約束したじゃん、な?」


そう言って音也くんは私の手をぎゅっと握った。


「とりあえず、教室に戻ろうか」

「うん」


私はその手をぎゅっと握り返した。






―本当にこの人のパートナーで良かったな。




Finir







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120611