あの後、私たちは口数少ないまま別れた。夏祭りに誘われたことはすごく嬉しいのだけれど、
なんだか心が落ち着かなくて、ざわめいている。そんな状態のまま私は寮に戻った。すると、友千香が「待ちくたびれたよー」と言いながら私の元へ駆け寄ってきた。

「こんな時間まで練習してたの?」

「う、うん・・・まあ」

私が適当な返事を返すと、友千香はずいっと顔を近づけて私の顔を覗き込んだ。
私はしどろもどろになりながら目をそらす。すると私の顔を指差して友千香は言った。

「顔、赤い」

「えっ!?」

不意をつかれたその言葉に私は声を裏返してしまった。すると友千香は笑って私の肩を持って、私をゆっくりとベッドへ座らせた。私は状況がつかめないまま彼女を見る。


「何々?何があったのー?」

「えっ」

「何かあったから、顔が赤いんでしょ?」

そりゃあ・・・そうなんだけど・・・。と、頭の中に音也くんの顔が浮かんでくる。それを掻き消そうと私は首を横に振った。すると友千香は私の手をぎゅっと握った。

「ほら、話してごらんよ?」

「えーっと・・・」



















事情を話すと友千香は嬉しそうな顔で私を見た。私はどうしたらいいか分からず俯いた。すると彼女は私の肩を持った。

「2人でお祭りかあー、それってもう脈ありってことじゃないの?」

「脈ありって・・・。でも、よく考えてみたらレコーディングテスト終わったらどっか遊びに行こうってのを実現してなかったからってだけだと思うし・・・それならパートナーとして普通というか・・・脈とかそういう問題ではな「だーかーらー!」

友千香は私の言葉を遮って私の肩を持つ手に力を込めた。

はそういうところがダメ。私だってパートナーいるけど、遊びに行ったりしないし、それが『普通』だとは思わない。大体、普段の態度から考えてみれば音也はのこと、す・・・」

そこまで言いかけて友千香は口を噤んだ。私は次の言葉が全く想像つかなくて、彼女の言葉をじっと待った。けれど彼女は独り言のように「あーダメダメ」と呟いてから私の方をじっと見つめるだけだった。

「友千香・・・?」

「あー・・・ごめん。なんでもないわ。私がここまで言っちゃマズイな。、今のは忘れて」

「え・・・?」

「忘れるの!」

「は、はい・・・」


私がそう答えると友千香はふうっと息を吐いてベッドから立ち上がった。


「よし、明日授業終わったら作戦練ろう!!」

「え、でも音也くんとの練習「明日は友千香とデートしなきゃいけないからって断ること!」

「そ、そんな」

「だーいじょーぶ!音也なら分かってくれるって。大体、アンタたち息抜きしなさすぎなんだってば。音也だって偶には男友達と遊んだほうがいいし、明日は練習お休み!いいねっ?」

「う、うん・・・」


私がそう頷くと友千香は嬉しそうに笑って私の頭を軽く撫でた。


練習したいけれど・・・多分今日のような感じで上手くできそうに無い。
変に意識してしまって・・・。もしかしたら一旦練習をやめてみるのも手なのかもしれない。私はそんなことを考えながらもカレンダーを見た。


・・・明後日か。



























次の日、私は音也くんに話しかけるタイミングを見計らっていたけれど、音也くんは中々隙が無くて、HRが始まる前は真斗くんや那月くんとお話をしていた。私は何度も音也くんに声をかけようとしたが、うまくいかず、結局月宮先生が来てしまい、HR前に話すことはできなかった。少しがっくりしていると、友千香がこちらを見て口パクでこちらに何かを伝えてきた。きっと、「早く言え」と言っているのだろう。私は手を合わせて「ごめんね」のジェスチャーを送る。すると友千香は「頑張れ!」とこちらに向かって親指を立てた。私はそれを見て大きく頷いた。


「ちょっとー?ちゃん何やってるのかしら?先生のお話、聞いてた?」

と、月宮先生が私の席まで来て顔を覗き込んできた。私は驚いて後ろへ一歩椅子ごと下がった。

「えっ、あ・・・す、すいません」

「珍しいわね、ちゃんが話を聞いてないなんて。オトくん、後で説明してあげて」

「はーい」


HRが終わると音也くんが私の名前を呼んだ。はっとして顔を上げると音也くんは隣ではなくて、私の机の向かい側に両肘をついてこちらを見ていた。吃驚して私が小さく声を上げると音也くんは少し困ったように笑った。


、今日変じゃない?」

「そ、そうかなあ?」

「うん、先生に注意されるなんて、らしくない!いっつも俺が話聞いてなくてに聞いてるのに」

自分でも珍しいなあと思った。きっとそれくらい、気にかかって仕方ないのだろう。
なんとしてでも、このもやもやを早めに払拭しなくては。そう思い、私は彼の目をじっと見た。何も不安に思うことはない、きっと音也くんなら分かってくれる。


「音也くん、あのね」

「ん?」

「今日の練習なん「あー!!そうそう、言おうと思ってたんだよ!」

「え・・・?」


私が首を傾げると音也くんは頭を掻いてから手を合わせて「ごめん!」と少し大きめの声で言った。何がなんだか分からなくて私がそのまま黙っていると音也くんは顔を上げて話し始めた。

「俺、今日どーしても外せない用事できちゃって。だから、今日の練習無しでもいいかな?」

「え?あ・・・うん、分かった」


私がそう答えると音也くんは「ごめんね」と付け加えた。
なんだ、彼も都合つかなかったんだ。私は少し安心して頷いた。

















いつもと違う放課後がやってきた。私は荷物をまとめると友千香のもとへと向かった。
彼女は私を見るなり明るい笑顔で迎えてくれた。


「なんか変な感じだね」

「そうだね、いつも放課後は別々だもんね」

「そういや、音也にはちゃんと言った?」

「あ、音也くんも用事あったみたいで・・・先に言われてしまいました」


私がそう言うと友千香は意味深な笑みを浮かべて「なるほどねーやるじゃん」と呟いた。私がそれを不思議そうに見ていると彼女はすぐに首を横に振って「なんでもない」と言った。


「ところで、。アンタ浴衣持ってる?」

「持ってないけど・・・」

「マジで!?じゃあ・・・どうしようか。私の浴衣着るのもアリだけど・・・と私じゃちょっと雰囲気違いすぎるよね」


友千香は私の身体をじっと見つめて呟くように言った。私はどうしたらいいか分からなくて、遠くを見つめていると友千香は腕時計を見て頷いた。


「時間もあるし・・・浴衣見に行く?」

「え!?」

「だってこれからも着ること考えたら持ってた方がいいって。ね?」


そう言って彼女は私の後ろに回って私の背中をぐいぐいと押した。
私はその勢いに圧倒されながらも彼女を振り返る。


「え・・・でも・・・「でもじゃないの!さ、行くよ!」


友千香は元気よく「レッツゴー!」と腕を挙げて私をぐいぐいと押し続けた。





















「ん?イッキ?どうしたんだい、うちのクラスに来るなんて」

「レン!あの、さ・・・ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「おや?恋の悩みかな?いいよ、聞くよ」

「ちがっ・・・・・・まあいいや、とりあえず場所変えてもいいかな?」

「構わないよ」


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