眠い・・・。
今日から始まる授業に備えて予習を遅くまでやっていたらこんな有様だ。
私は廊下をトボトボと歩きながら欠伸をした。こんなことになるなら
もう少し早く寝ればよかった・・・なんて後悔しながらも教室にたどり着いた。
私は呼吸を整えてから教室のドアに手をかけた。


今日からが、本番。

















HRが始まり、月宮先生が教室へと入ってくる。
その手には人数分あるであるプリントが握られていた。
・・・いやな予感がする。

月宮先生はそれを「よいしょっ」という掛け声とともに教卓の上に置いた。
生徒たちがざわめきだす。私の隣に座っている音也くんもそわそわし始めた。

「なあなあ、あれって・・・」


不安そうな顔で音也くんが私を見る。
私がそれに答えようと口を開いた瞬間、月宮先生が手を叩いた。


「はいはーい!みんなー、今日から授業が早速始まるわけだけど、
その前にみんながどのくらい音楽についての知識があるか、確認のため
抜き打ちテストを行うわよ!」


クラス全体で「えーっ!?」という声が上がる。
私は音也くんをチラッと見る。驚いたような顔で口をパクパクさせる。
そして私の方を見て小さな声で言った。


「俺・・・音楽の知識なんて無いよー・・・どうしよう」

「だ、大丈夫だよ」


私はそう言うことしかできなかった。
とりあえず、昨日少しでも勉強しておいてよかった。

なんて思っていると、月宮先生がプリントを配り始めた。
生徒たちは仕方なさそうに机に筆記用具を出して回ってくるプリントを待っていた。


と、全列配り終えた後に月宮先生が思い出したかのように話し出した。


「あ、言い忘れてたけど、このテストで60点以上取らないと再テストがあるから、気をつけてねっ」


再びクラスがどよめく。
60点か・・・。問題にざっと目を通すと簡単なものから難しいものまで色々な難易度のものがあった。



















「あれは・・・無いよね」


テストが終わり、休み時間になり友千香ちゃんは私の元へ来るなりそう言った。
私は次の授業のノートを準備しながら笑った。

「確かに、いきなりテストしなくても・・・ね」

「ほんとよー、でもは昨日遅くまで勉強してたもんね?」

「え、あ・・・」

知ってたんだ・・・。
私は少し恥ずかしくなって俯く。

「あんたのそういうところ、すごいなって思うわ。あたし30分机に向かってることすら耐えられないもん」


友千香ちゃんが笑いながらそう言う。
すると、隣で先ほどのテスト終了後からずっと机に突っ伏していた音也くんがガバッと身体を起こした。


「え!?勉強してたの!?」

「え、あ・・・うん」

「あーーーやっぱ俺も昨日屋上でに言われたとおり予習しておけばよかった」


頭を掻きながら音也くんが言う。そんな音也くんを見てから友千香ちゃんは私の方を見る。

「屋上?」

「あ、昨日ね音也くんが・・・」

私がそう言い掛けると音也くんはいきなりカバンの中を漁り始めた。
私と友千香ちゃんがそれを不思議そうに見ていると、音也くんは一枚の紙切れを取り出して
私にそれを渡してきた。


「これ、昨日書いてみたんだ」

「何これ?」

友千香ちゃんが隣から顔を覗き込む。


「俺、昨日屋上でと歌ってみて、こういう詞が書きたいなって思って・・・つい、勢いで書いてみちゃいました」

音也くんが照れくさそうに笑っている。
私はその紙に目を落とした。


これ、音也くんが書いてくれた歌詞・・・。


まだ作曲もしていないのに、こんな・・・。
私が感動していると隣で友千香ちゃんが歌詞を朗読しはじめた。



「『まだ誰も知らないこの想いを・・・「わーーーー!声に出すな!!!それだけはやめて!!!」


音也くんが大声で友千香ちゃんの声を遮る。
私はその隣で黙って詞を読み続けた。


音也くんのまっすぐな詞が胸に突き刺さる。
すごく一直線で、真っ直ぐで音也くんらしさが伝わってくる。

高尚な言葉を使っているわけでもないし、
よくありふれたフレーズばかりだけれど、そこにちゃんと音也くんが存在していて
心をぐっと掴んで話さない歌詞だ。


この詞に合わせて曲が作りたい―。



私が黙っていると音也くんがおそるおそる私の顔を覗き込んできた。




「どう、かな?」


「すごく・・・いい」



私がそうぽつりとつぶやくと音也くんは顔を真っ赤にして手で顔を覆った。
私はそれを見てなんだか恥ずかしくなり、俯く。

「なんなの、あんたら、お互い恥ずかしくなっちゃって」


茶化すように友千香ちゃんが笑って私の頬をつついた。
私は「そんなことないよ!」なんて手を横に振ってちらりと音也くんを見た。
音也くんは恥ずかしそうにはにかみながら私の手の元にある紙を見つめていた。


そうこうしているとチャイムが鳴り、友千香ちゃんは席へ戻っていた。
その後、授業が始まるまで私と音也くんは何も喋らなかった。

















放課後。
私が荷物をまとめていると、音也くんが息を切らして教室に戻ってきた。


!どうしよーっ」

「どうしたの?」


音也くんが私の目の前に一枚の紙を突き出す。
最初はなんだかよくわからなかったが、じっと目を凝らすとそれが朝行ったテストだということが
分かった。紙の右上を見るとそこには「55点」の文字。

「俺再テストになっちゃったー!どうしよう・・・」

「あと5点・・・お、惜しい・・・」


私がそうつぶやくと後ろから真斗くんが溜息をつきながらやってきた。



「そう難しい問題ばかりじゃなかっただろう・・・」

「え、嘘だろ?俺、難しすぎて途中から全部勘でやったんだけど・・・」


音也くんがそういうと真斗くんはもう一度溜息をついた。
確かに、そこまで難しい問題ばかりではなかった・・・。


「とにかく、再テストになったからには次は合格できるように勉強しなくてはならないな」


真斗くんがそういうと音也くんは「えー」と不満そうな声を漏らした。


「「えー」ではない。これではパートナーであるに迷惑がかかる」


真斗くんはそう言って自分の机の方へ戻った。
音也くんはもう一度テスト用紙を見つめて、溜息をつく。


「俺、こういうの苦手なんだよなあ・・・でも!でもさ!」


急に笑顔になって音也くんは私の前にもう一度テスト用紙を突き出した。
そして点数を指差して笑う。


「勘で55点ってすごくない?」


私は思わず笑ってしまった。
それを見た音也くんは「も馬鹿にするのかよー」と少し不満げに言う。
私は首を横に振って否定したが、笑っている私の顔が気に食わないのか音也くんは
ぷいっと横を向いて拗ねてしまった。

と、私がどうしたらいいかわからず戸惑っていると真斗くんが一冊の本を片手に
戻ってきた。そして、その本を音也くんに手渡す。見かけよりも重いその本に
片手で受け取った音也くんは鈍い声を漏らしながらなんとか本を持ち直した。



「これを全部覚えれば再テストに合格する」

「これ・・・なんだよ・・・?」

「音楽用語大辞典だ」


私が音也くんの隣で本を覗き込んだ。
そこには小さな字で音楽用語がずらーっと並んでいた。
・・・目が回りそうだ。私がそう思っていると横で音也くんはもう目をぐるぐるとさせていた。



「こ、これは無理だよ・・・マサ・・・」

「そうか?ならば、再テストに合格は無理だな」

あっさりと言う真斗くんに音也くんはショックを受けて小さく唸った。

「あの・・・音也くん?」



心配だったので声をかけると音也くんは生気のない返事をしてきた。
私は拳をきゅっと握り、音也くんを見つめながらこう言った。



「もしよかったら、一緒に勉強しない?」


vivo




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