夕暮れが綺麗に輝く坂道をいつものように二人で下っていた。
二人で話すことなんて、音楽の話ばかりで、それ以外の話なんて全然していなかった。
今日もそんないつもと変わらない他愛のない話で盛り上がっていた。
ふと、君が立ち止まった。俺は足を止め振り返る。
「どうしたの?」
そう尋ねると君は急にポケットからmp3プレイヤーを取り出しイヤホンを差込口に刺し始めた。
そして無言で片方のイヤホンを差し出してきた。俺はそれを受け取ると耳に当てた。
その様子を嬉しそうに見て、君は再生ボタンを押した。音楽が流れてくる。
聞いたことのない曲だ。にしても、メロディラインが心地よい。
二人でひとつのイヤホンを使っているため、歩幅をしっかり合わせないとイヤホンが外れてしまう。
少し苦労はするけれど、君との距離がぐっと近くなって心地よい。
俺が曲に聞き入っていると隣で君は嬉しそうな顔をした。こうして音楽を聞かせあったりして、
趣味を共有するようになってもうどれだけの時間が経つだろうか。距離は相変わらずこのままだけれど、
君は前に比べて俺に笑いかけてくれるようになった。それが嬉しくて、嬉しくて。
気がついたら、好きになっていたんだ。
俺は隣で嬉しそうにはにかむ君を見て、思わず手を握った。
君はびっくりして慌てて距離を開けようとした。
そのはずみでイヤホンが外れる。
「あ・・・」
耳から外れたイヤホンから心地よい歌い手の声が流れる。
俺たちは足を止めた。そして見つめた。
君は顔を真っ赤にして俯いた。ちょっと、びっくりさせちゃったかな。
「」
名前を呼んでみても顔を上げてくれない。
俺はもう一度名前を呼んだ。でも顔は俯いたまま。
仕方なく俺は君の手からイヤホンを奪って、両耳に装着した。
君は驚いた顔をしてスタスタと歩く俺についてくる。
でも俺は歩くのをやめなかった。それにしてもこの音楽、本当に心地よい。
そうして音楽に聞き入っていると、後ろから君に腕を掴まれた。
振り返ると君がこちらを見て、手を差し伸べてきた。
俺は手を握ろうとしたが、また同じことをすると可哀想なので、
お望みどおりイヤホンを片方だけ、返してあげた。
すると君は俺の隣にならんでイヤホンをつけた。
そしてまた、先ほどと同じように歩き出す。
今日もまた、距離は縮まないまま。
夕焼けはいつもと変わらず、そんな俺たちを見守り続けていた。
三歩進んで
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120121